選出作品

作品 - 20170913_213_9904p

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星月夜

  kale

時間が熔ける。雑ざり気のない融点は良質な蜜蝋を漏出させ硬い窓枠の材質に濃い染みを作る。陰に潜む生き物たちの鼻唄や衣擦れとが交ざりあい夜は猥雑な静寂に埋もれていく。昔ここらは星がよく採れたんだ、と皺だらけの顔に浮かぶ大粒の汗が深い渓谷に流れ込み堆積する砂れきに紛れ結晶し一筋の光の河になる。内外の律の差に滞留と対流をくりかえす渦の煌めき。星間飛行をくりかえすのは銀の鱗を持つ魚。棚田に犇めく不規則はモザイクの色彩。息をひそめて眠る眼差しは極層に埋もれることを拒否することで銀化し尾を翻す。砂にまみれた背はやわらかさを失うことを嫌い、鋭くちいさく砂を弾く。降り積もる夜を振り払い広い台地に星をさがす。遷回するうねりはやがて無数の砂をゆっくりと速く巻き上げ、降り注ぎ、複雑な渦で流動する煌きは未だ見ぬ台地を形成し始める。浚われた光は河から河へ、すべての灯は朝陽のために身を投げる。中心に火は集い、銀は熔け、現象する光の海嘯、営みの陰影を遡上するシルエット、星月と翳の沈黙に調和する、闇はもうひとつの夜を象る。