選出作品

作品 - 20170912_201_9903p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


感情の秋

  郷夏


(光射し、その言葉)
 夏の遠ざかってゆく日、それぞれの夜明け
 賑わいの祭囃子が途絶え、唖者は黙する秋をさまよう
 悲しみよ、覚めないでいておくれ
 
 
(光射し、その言葉)
 私の忘れえぬ唯一の願いごとが、もういちどきみと
 おなじ景色をみることです
 それが叶うならば、私たちはすべてでわかりあえましょう
 わかりあえるはずでしょう
 
 
(光射し、その言葉)
 けれどもきみは遠かった
 夜道のかたちを歩き慣れ
 わたしのなみだがとどかぬそこは
 つめたくはげしく、空々しい
 そしてわたしが失意にそよぎ
 心静かなぬかるみの、さなかで無力に立ち尽くし
 なみだは朝陽へ涸れゆくころ
 むなしき声さえ訪わぬ日々が
 ゆきもどる春を水沫のように
 はじける、淋しく、目紛しい
 (つなぐ孤独を解りあう、愛しきひとの尊いぬくみ)
 (せいしんてきに失せてゆき)
 
  ふたつの人影、巨大に白く
  風紋をみだし、けずられた渚の
  ひかり射しひかり射す、その言葉
  波寄せてくずれ、壊れゆくものの静けさへ
  (僕らの恋は不能となった………)
  (もっと美しく笑えたじゃないか………)
   月下の水面を白鳥座は閃き
   神秘の軌道をえがいて映える
   宵となりやがて、砂上への文字はなく
   悠遠の海が青褪めてひとつ
 
(春)色めく朱唇のふれあいは
(夏)ゝ憧憬を妬心へくだし
(晩)やがて静かに呻吟し
(秋)ひそかに涙を睨むのみ
 
   なぜあのうつくしい過去のはて
   こころに俺は孤立する
   
 
   こころにさえも孤立する
 
 
   (その夜、誓言すら忘れたようなおまえが)
   (くるしみもしらず空を見つめていたから)
   (おれは憎しみで星を数えるようになった)


 
    (ひかり差し、そのことば)
     ゆびさきからほどかれるきみに
     このかなしみの名を教えたのだ