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郷夏

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


サラバ彼方

  郷夏

過ぎし日に誓いをえがいたひとはいま
 気づかぬ悪意を呼吸して
 醜いわらいへ狎れている
  ぽかりとくちを、ひらけてわらう
  その冷暗になにを匿い
    一体なにを感じよう

  (唖者の見つめるそそめく雲は)
  (温室から昇りくる、若やかな青)
  (いやある時は赤みがちにかかり)
  (穂並と震えるわびしい残映)

 秘めし恋情…   (氷結し)
 今こそせめて…  (雪国よ───)
  悲しき恋を…  (闘争と見なせ……)

  (貞潔のゆびが髪をながれ)
  (処女の色気は乳臭く)
  (さえずるものさえ明日(あす)ばかり)
 
  (いままた狂気に直立し)
 
  (今またきみを、思い出す)
 
 心象の波がおだやかに押し引き
 野薔薇のねむる冬の日は
 あかくつめたい現象の目覚めし
 光がまばゆくも…(もはや饐えたにおいで、くずおれる)
  そのいっしゅんかんに呼応して
  祖父の微笑はひきつって見えた
  きみの微笑だけはひきつって見えないが
  切望だけを与えて消える

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感情の秋

  郷夏


(光射し、その言葉)
 夏の遠ざかってゆく日、それぞれの夜明け
 賑わいの祭囃子が途絶え、唖者は黙する秋をさまよう
 悲しみよ、覚めないでいておくれ
 
 
(光射し、その言葉)
 私の忘れえぬ唯一の願いごとが、もういちどきみと
 おなじ景色をみることです
 それが叶うならば、私たちはすべてでわかりあえましょう
 わかりあえるはずでしょう
 
 
(光射し、その言葉)
 けれどもきみは遠かった
 夜道のかたちを歩き慣れ
 わたしのなみだがとどかぬそこは
 つめたくはげしく、空々しい
 そしてわたしが失意にそよぎ
 心静かなぬかるみの、さなかで無力に立ち尽くし
 なみだは朝陽へ涸れゆくころ
 むなしき声さえ訪わぬ日々が
 ゆきもどる春を水沫のように
 はじける、淋しく、目紛しい
 (つなぐ孤独を解りあう、愛しきひとの尊いぬくみ)
 (せいしんてきに失せてゆき)
 
  ふたつの人影、巨大に白く
  風紋をみだし、けずられた渚の
  ひかり射しひかり射す、その言葉
  波寄せてくずれ、壊れゆくものの静けさへ
  (僕らの恋は不能となった………)
  (もっと美しく笑えたじゃないか………)
   月下の水面を白鳥座は閃き
   神秘の軌道をえがいて映える
   宵となりやがて、砂上への文字はなく
   悠遠の海が青褪めてひとつ
 
(春)色めく朱唇のふれあいは
(夏)ゝ憧憬を妬心へくだし
(晩)やがて静かに呻吟し
(秋)ひそかに涙を睨むのみ
 
   なぜあのうつくしい過去のはて
   こころに俺は孤立する
   
 
   こころにさえも孤立する
 
 
   (その夜、誓言すら忘れたようなおまえが)
   (くるしみもしらず空を見つめていたから)
   (おれは憎しみで星を数えるようになった)


 
    (ひかり差し、そのことば)
     ゆびさきからほどかれるきみに
     このかなしみの名を教えたのだ


結ぶ五月の爪先を

  郷夏

(海の夜景を見送りながら
 季節をたもつ寂れた線路に
 ひとり揺すられ、どこへゆく
 きみは)
 
(望みは絶たれ、ゆめのこだまは
 波間に燃える閃きのかさなり)
 
(あかるい悪意をみなぎらせ
 あらゆる風がそのために
 天を削ってゆくのなら
 結合組織の破れから
 誰の帰路から凍えるか)(もう帰ろうよ
   まだかえらないよ)(鐘が鳴ったよ
   まだなってないよ)

  〓
    さかだった日射しがたちならび
    翅のモチーフ
 
    なみだを繋ぐ現象を
    かなしみと名付け遠ざかる
    きみは冷たく華やいでゆき
    雨のなか レピダプテュラ
         脚並みへ消える
 
(世界へかかわる
 大気のあざとい氷結や
 色を変じた幻覚などは
 確約された祝福をもち
 交差忙しい五月の上を
 感触ばかり呼び覚ます)
 
(やさしく疲れた頰笑みが
 わたしをいっそう惨めにさせた)
 
  〓
    黄昏に呼び声の躓き
    風葬のレリーフ
    
    嗤笑それぞれさめざめとし
    見逃されている余白まで
    染めあげてゆくのか
 
    (May.2014/Moonrise)
    双円燃える光の底を
    まずしい眼つきを投げ噤み
    夢想の仮死へながれて白む
    ああ
    欠かす景色を不朽のために
    光陰のよるを巨大にしろく
    また華やぎの風雪のもと
    あばかれなければならないか
 
(線路の裂傷にとおい残響
 そこへとどまる幼き影の
 かりそめの纏まり)
 
  〓
    発熱をたより弛緩する
    抑制のモジュール
 
    約束された別れを語る
    さよならだけが心のゆくえ
    (あたたかく頬を撫で伝う
     しずかになみだを繋ぐもの)
    ああ
    想起と憎悪に透明な
    淋しい過去が密やかに
    わたしの声をし泣いている

文学極道

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