選出作品

作品 - 20170911_181_9897p

  • [佳]  午後 - 深尾貞一郎  (2017-09)

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午後

  深尾貞一郎



缶コーヒーを飲んだ。アーク溶接の激烈な閃光を受けた。
防護面を被った派手な顔立ちと、胸の膨らみに視線を奪われ、愛想よく、
口上を並べて、笑顔をつくった。
笑顔をつくった。
未熟な人間が高貴な死を求めよう
コバルトブルーの、燃料タンクには「GT380」、なぜか、
自然にあくびがでた。
正面に座っているトルコ人の視線が、
開いた口元に注がれる。
何度も
大きなあくびがでてとまらない。
高速回転するドリルが、
分厚い金属板に
穴を穿つ。
ギアと
ギアと
ハンドルを調整しながら、
穴から螺旋状に生まれてくる
アルミニュウム片を
見詰めている。
待っている間、5本の指を見詰めた。細かい傷にグリースや鉄粉が入りこんで、
アーク溶接の激烈な閃光を受けた。
秋風が穏やかな匂いを運んできた。
ショパンのエチュードを想うと、
幼い友の面影が浮かんだ。
真っ白なグランドピアノが据えてある。
『別れの曲』
のメロディは、濃密に、繊細に、
空間を彩り、
抑制された、
確かな構造に支えられている。
単純で自然である。
多くの能力が要求される幻影を繰り返して。