選出作品

作品 - 20170908_148_9891p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


サラバ彼方

  郷夏

過ぎし日に誓いをえがいたひとはいま
 気づかぬ悪意を呼吸して
 醜いわらいへ狎れている
  ぽかりとくちを、ひらけてわらう
  その冷暗になにを匿い
    一体なにを感じよう

  (唖者の見つめるそそめく雲は)
  (温室から昇りくる、若やかな青)
  (いやある時は赤みがちにかかり)
  (穂並と震えるわびしい残映)

 秘めし恋情…   (氷結し)
 今こそせめて…  (雪国よ───)
  悲しき恋を…  (闘争と見なせ……)

  (貞潔のゆびが髪をながれ)
  (処女の色気は乳臭く)
  (さえずるものさえ明日(あす)ばかり)
 
  (いままた狂気に直立し)
 
  (今またきみを、思い出す)
 
 心象の波がおだやかに押し引き
 野薔薇のねむる冬の日は
 あかくつめたい現象の目覚めし
 光がまばゆくも…(もはや饐えたにおいで、くずおれる)
  そのいっしゅんかんに呼応して
  祖父の微笑はひきつって見えた
  きみの微笑だけはひきつって見えないが
  切望だけを与えて消える

* メールアドレスは非公開