父の子として生まれて良かったことは無いと思う
日曜日に父はいなかったし
私は父を知る機会に恵まれていなかったから
父の子として生まれたことは
私たちが暴れた時に
たとえば湯船に沈められて、ばたばたとしていた
兄がふてくされていた記憶であって、
私としては、父は鉄のように強かった
でもそれが十数年を経て
父が死んだ時には思い知らされることがある
私は不良のように働いていて
訃報を知るや舌を噛んだ
誰にもこの人の死を悲しむ権利などないのだと
昔から身を粉にしてはたらいた人の死というものが
月曜日のわびしい事務所の一角であって
自死であったとは誰にも告げようのないものだ
世がわしゃんわしゃんと新しきものをつくろうと
ただ一人私の父の死について、
それが立派であったと言える日というのは
永劫に無いものだということを
当時泣いていた私を撫でてあげたいものだという
世にはばかった、くやしさを
この信条だけは、今なお私の宝であって
誰にも汚されぬものである
誰にも、誰かの死を、嘆き悲しむ権利など無いのだと
私は一人で、強く賢くあらねばならぬのだ
選出作品
作品 - 20170812_522_9844p
- [佳] 父の権威 - ちょび3 (2017-08)
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父の権威
ちょび3