選出作品

作品 - 20170630_286_9714p

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心中に予告、心中に遅刻

  紅茶猫

駅前の来来軒で
ぶどうパンを三斤買って
その重さに
前のめりになりつつ
足早に歩く 

パンと私を
天秤にかければ
明らかに
わたくしの方

重い
ぶどうパン三斤で
沈むか
この身体


夕べ、スマホが
けたたましく鳴って
「明日心中を決行する」と
メールが来た。

今年に入り二度目の
決行予告

(23:08)

かったるい


日時:明日
場所:川
参加人数:2人
持ち物:水着、ぶどうパン三斤
備考:雨天決行だよん



だから何で
ぶどうパン
水着もこれ相当おかしいよ、

などと返したところで
返信は無い。


2時間ほど歩いて
街外れにある森の
階段を
16段上って87段降りた

濃紺の改札を通り
地下鉄に乗り込むと
ワカメが車両狭しと
生い茂っていた

利用者の立場に
全く立っていない
運営ぶりである

吊り革のように
ぶら下がる
酸素ボンベを
口に当てると
浮き上がらないように両手で
しっかりとパイプを握った

海の真ん中に川は無いと思う

海の真ん中に川は無いと思う!

階段を87段上って16段降りるべきだった?

ワカメが頬をなでる
黒い大きな影が
窓の外を通り過ぎていった



(15:08)


「まだ?」
「遅いよ」
「今日はもう止めるよ」
そう言い残して
スマホが先に水没した。