女の肉
男の肉
トルソ
sex
黙れ
沈黙の中の
性的な香り
豊穣な
繊細な
幾万の香りの粒子を
貴方はその不細工な舌で
押し潰し 蹂躙し 押し込める
言葉という呪いで 言葉という呪いに
(その日曜日に、私達はある川沿いで出会う
燕が黒い小さな俊敏なナイフのように空を舞っている
白い陽光が降り きらきらと水面で細かく砕かれていく
そんな時空で
柔らかな黒い果実のように
あなたの存在を私は受け取った
匂いが 漏れていた
あなたの微笑みの中の苦悩は
子栗鼠の目をした私の中に
ただちに、ゆっくりと、反響を始めた)
無数の 乱反射する 沈黙の 柔らかな 温かな 瑞々しい 冷酷な 香り
私は2対の(あるいは無数の)目を綴じ
それらを思う 殆ど夢見るように
性的な 夢
(私達は川べりを歩いていった
ホオジロの艶々とした囀りが響き
私達の会話は 楽しいものだったと記憶している
その間も ずっと
あなたの苦悩は ちらちらと影の中に揺れていた
そう、最初に目に留まったのはそれだったのだ
それこそが 常に白い私の視界の中で
あなたの、存在を指し示す 唯一の )
(木陰に佇んだあなたは
遠い水面の先に目をやった
私は黒い目でその視線を追った
そこには有り触れた 街の 穏やかな風景が
白い 光に 包まれ
影の織る絵画のように あった
その時 私の中に起きた感情を
私はまだ名づけることが出来ない)
私の不細工な舌は
美しい無限の匂い達を
押し潰し 蹂躙し 押し込める
私という呪いで 私という呪いに
生の懊悩だとか言ってみたい、と
性の懊悩だと嗤っていたい、と
(いつの間にかあなたは
私の傍から姿を消していた
川と街の風景はまだ思い出に残っている
あなたのその黒い苦悩が
私の傍からあなたを去らせたのだと
私は直感している
あなたはそれを留めることが出来ない
あなたはそれを留めることが出来ない?)
その香りは
今も空中を舞っている 恒常的に その有限性に
警察犬よりも素早く
私はそれを嗅ぎ付ける
その脆く美しい香りを
私はまだ名づけることが出来ない
香りに呼応するように
血が 私の中を激しく巡る
女の肉
男の肉
ちぎり合う生の
奪い合う性の
触れない夢の
トルソ の 見えない頭部 から 滑り落ちる涙
硝子のsex
黙って
静かにして
今は 感覚を 澄ませて
逃してはいけない
貴方はそれを逃してはいけない
散る 香り 萌え る 光 のよう な それ を あ な た は
喪っては いけない
夢を見るように
名づけたいと思うのだ
ほら、美しい
(反吐が出る寸前の)
捧げもの
sex tribute
選出作品
作品 - 20170613_885_9680p
- [佳] sex tribute - 白犬 (2017-06)
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白犬