それは一般的に海と言われているが、わたくしには恥ずかしい果実、葡萄の崩れたものにしか感じられない、で、歩いていた、ら、白い砂がわっと風で舞い上げられて、口内に、眼中に入ったが為に、あららとお道化るようなオーバー・リアクション、スローモーション、が少しかかったこの世に於いて、「ボクノ、コエニハ、ディレ、イ、イ、イガ、カカカッテテテッ・・・イル」と呟いて、ペッ、ペッ、と砂塵を口中から吐き出す。眼は大切なので慎重に涙に任す。顔が洗いたいなと思う。
「弥勒菩薩はとしおえん、弥勒菩薩はとしおえん」
蒲公英みたいな黄色い帽子を被った幼稚園児がそう歌いながら歩いている町へ出た。俺は魚だった。まるで。廃れたスーパー・マーケットで売られているような魚だった。おえ。気分が悪いよ。まるで。そこを虚無僧が通っていった。俺を喰って成仏させることもできない、清貧な坊さんだというか。昼、虚無僧はラッキー・ストライクを駅前で吸った。俺、袋の中から見た。まるで。煙草の草は天高く浄土へ辿りついただろうか。その晩俺の首はバッサリ斬られた。まるで。
二つのエピソードが脳の中で葛藤をはじめつつ、パソコンに向かってキーボードを叩いている。ぶちまけたいことがあるということは悪夢だけれど、いい悪夢だね。だね、って誰に言っている?書いているんだろう?きみのオルグをやんわりと拒否し、軽快に歩けるのはポケットの中に御金が入っていない、財布が入っていないから。さいわいだね。不幸だということは。この階層までおりてくるものはいない。と、やっと顔を洗えた。公園。ラッキィ。ひとつラッキィがあると、もっとラッキィが欲しくなるもので、何分自分は努力もしないのだけれど、書くことは好きなので物を書いている、内に巧くなっていったのか、好きこそものの上手なれ、ということだねぇ、と魚の首がつぶやく。頂きました。ちょっと焼きすぎてしまったね。畜生にちとくれてやろうと思うたが、畜生のヤツグルメになって、今じゃ私すら喰わない、鮪のヤツばっかり食べて、鮪のヤツ地獄行きだよ。可哀そうとも思わない。あんなスピードで生き急いでいるから悪い、と蛇口をしっかりしめると、蒲公英みたいな黄色い帽子を被った幼稚園児ふたりが俺の方をじっと見つめていた。俺、変?「ねぇ、その歌どこで覚えたの」と声をかけた途端不審者がられるのか、妄想なのか、その境目がわからずに、俺はその幼稚園児の腕にぎゅっと抱きしめられると、中川家の猫になってた。で、俺みたいな魚。まるで。を猫な俺が食ってた。なにこれ珍百景。泣いていいのかな、
気付いたら走り出していた。浜の俺は、魚な俺は、猫な俺は、自分でもうつくしいと思った。何かグッドなフィーリングだと思った。特に魚な俺がグーンと碧い海の影から明るみに出る時その一呼吸だって捉えて、ぎゅっと粉砕する、浜辺な俺だった。指からこぼれ落ちるものがあった。きらきらと輝いて。なにこれ珍百景。パワー!!絶対この後鬱になるなと思ったら、感じただけならまだよかった。俺は書いている。少し蒸し暑い寝室で。
今はギロチンに興味関心がある。聖母に興味関心がある。乳房に興味関心がある。クリープの粉に興味関心がある。こころの底から笑ってみることに興味関心がある。ダーンス。が済んだら、またつまらなくなるんだろう、俺の、わたくしの両指よ。あったかくなったこころにやっと入れ物が見つからなくなりそうだよ。でも、それは絶望ではない。多分!
選出作品
作品 - 20170606_766_9666p
- [佳] 回帰幻想譚 - 田中恭平 (2017-06)
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回帰幻想譚
田中恭平