一、
ずっと昔、一基の灯台だったころ
蠍の祭で頸をきられた
ぼくたちのからだは書庫に打ち棄てられたまま
頸の断面から夜ごと伸びた羽
ヒヤシンスの芽のように
紫色のこどもたちの実がなって
ぼくたち、切り刻まれながらも
世間を知った
あれから、ぼくは
土くれを寺院にして僧侶になった
夜にはほそい四肢に炭を塗り
砂浜にひとり
火を鏡としてくらす
そこにきみの顔がみえた気がしたから
けものたち、あたたかい
どうか、このまま
朝まで血をくべて
市、
橙色の麦ばたけできみをみた
その日から
葡萄をふみしだく花嫁の足首
船をひく偏西風の手首
古時計のねじの回転に
きみをみた
夏の空におちる火のなみだ
灰を塗った顔は
きみだった
位置、
この街の
一番高いところに立つきみは
風にたなびく
かみのようにまっしろく
あんなに強い風、あそこからやってくる
砂漠に生える葡萄の木の下あたり
砂に抱かれて沈んでいった
閉じた瞼に映る涸れ川あたり
今にも張り裂けそうな葡萄の実
それらがたたえるあまい水は
忘れ去られた川の記憶だ
煮出された血液は
複雑な水路をたどり
やがて色はうしなわれ
みんな、みんな、
きみへとつながる
きみの横顔を映す鋏で
きみはみずからを刻んでいく
風は吹き散らす、足の先から
まっしろな切片を
最後のきみは、どこに宿っていたのだろう
この街はきみで埋め尽くされて
ぼくはみうしなった
さようなら、こんにちは
簡単なおしゃべりが
今もまだ終わらない
選出作品
作品 - 20170401_789_9525p
- [優] (無題) - どしゃぶり (2017-04)
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(無題)
どしゃぶり