この夕暮れ時に、ひとときの安堵と寂しさとのあいだで、わたしの瞳の中を泳ぐ、俎板のう
えのかなしい子魚たち、時のながれをさかのぼるように、わたしの水面を掻きみだす、台所
に立つ萎んだ母の背中、澄んだ水道水のかぼそいせせらぎ、揺らめいてガスコンロの火さえ
も寂しげに、小さな四角い窓からは、まだ葉をつけていない冬の裸の老木、木はたとえ倒れ
ても春になれば葉をまた茂らせることができるのだと、信じたい、あるいは、西の窓から滲
む紅のまぶしさと温かさのように、包みこむことができるのなら、このような夕暮れ時に。
選出作品
作品 - 20170327_673_9513p
- [優] 夕暮れ時に - 本田憲嵩 (2017-03)
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夕暮れ時に
本田憲嵩