選出作品

作品 - 20170206_752_9431p

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余裕は無い

  祝儀敷

スクランブル交差点のあちらこちらで
余裕無い人達が両手をぶるぶる
すれ違い行き交う人の流れの中で
置き石のよう立ち留まり焦っている

黄信号 腕の残像 照り返る熱気
鳴り重なる足音 靴底の硬い音

四方に主要道 各斜めに細長いビルが乱立
摩天楼は濃密に空を埋めていく
それらの行間を人々の群れ塊は
石の裏にひっついているような
湿った虫のようわらわら進む
だけど余裕無い人達だけは足が固まったのか
前に進めずぶるぶるぶるぶる

クラクション 排気ガス 赤信号
日射に溶けるアスファルトはゆっくり垂れる
横断歩道は縞模様 各斜めに辿り着き
人々はざわつく午後一時

ゆらり人の流れに乗って
平穏にやり過ごせばいいものを
余裕無い少数の人達
彼らはその場にすくんでしまって
巨大なスクランブル交差点に点々と点在
紅潮した顔面に汗だけは絶えず噴き出ていて
無用の運動 ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる

男も女も老いも若きもいる
カロリーが消費されていく
眼球は小動物のよう泳ぎ狂っている
一体全体の大渋滞に騒音ばかりが増していくが
ただただ物も言えず移動もできず手を振るだけ
手のひらを下向きに手首を軸にして往復するだけ

轢かれない轢かれない 余裕無い人達
目立つ目立つ 道路に立って焦るだけ
轢かれない轢かれない 車は進めない
余裕無い人達が要石のよう
そこに立ち止まっているから
そこから動けないでいるから