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渡辺八畳@祝儀敷 (祝儀敷)

選出作品 (投稿日時順 / 全31作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夕陽に顔面

  祝儀敷

長い黒髪 風にゆらめかせ
女子高生 夕陽を望む
滑らかな曲線を描くシルエットが
逆光によって赤い校庭に写し出される
女子高生は
ゆっくりと
こちらを向いて
その顔面が落ちる
ストンストンと真っさかさま一直線に落ちる
何枚も落ちる止まることなく地面に落ちる
落ちて入れ替わって落ちてこちらを見つめてくる顔面は無い
落ちる落ちる落ちる奇術のマスクのように落ちる
落ちる落ちる落ちる滝のように目まぐるしく落ちる
静止した胴体と反して次々変わる顔面の状態
周りの風景もいつの間にか激しく変わりだす
空は絶え間なく256色に移り変わり
早送りのよう雲は飛び月陽星々は回り続ける
ついに女子高生のハイソックスの縁から虹色の水が溢れだし
爪はどんどん伸びていって蛇のようとぐろを巻いていく
すべてが落ちて変わって飛んで回って動いて暴れて暴れて暴れて
百面相の顔面は険しい山を盛り積み造りあげているが
ただひとつ女子高生の胴体だけは
静止して
動かない
それ以外の全世界は恐ろしい速度で変化し続ける


首ちょんぱロリ美人

  祝儀敷

手毬のよう首が跳ね飛んだぴょーん
しゃららら流れる生命のメロディ
手毬のよう首が跳ね飛んだぴょーん
ぴゅっぴゅ鮮血は庭園の噴水
手毬のよう首が跳ね飛んだぴょーん
手毬のよう首が跳ね飛んだぴょーん
手毬のよう首が跳ね飛んだぴょーん

萌え萌えロリっ子はこの0.5秒を繰り返す
手毬のよう首が跳ね飛んだぴょーんで0.5秒
戻って手毬のよう首が跳ね飛んだぴょーんで0.5秒
戻って手毬のよう首が跳ね飛んだぴょーんで0.5秒
くりくりかえす残酷童謡
萌え萌えキュン❤で鮮血ぷしゃあ
戻ってぷしゃあ0.5秒戻ってぷしゃあ0.5秒
かわいいロリっ子永劫死に続ける

重力無視のテカテカドレスに
赤色ポルカドットが映えて消えて映えて消えて
ツインテールは宙に舞って刹那のダンス
ほらほらぴょーん0.5秒ほらほらぴょーん0.5秒
ほらほらぴょーん0.5秒ほらほらぴょーん0.5秒
1秒にも足りやしねぇぜ☆

痛いのか痛くないのかわからないけどぴょーん
悲しいのか悲しくないのかわからないけどぴょーん
おもちゃみたいにぴょーん 嬲りものだぴょーん
ロリっ子の眼球は大きく見開かれているけど
何を思っているか他人にゃわからんし
何を思っていようとも変わらずにぴょーん
表情も意味成さずに首が跳ね飛んでぴょーん
苦しいのか苦しくないのかわからないけどぴょーん
辛いのか辛くないのかわからないけどぴょーん
傍から見るなら面白いなぴょーん
鮮血ぷしゃあで首ちょんぱぴょーん
ピンクのツインテールふーわふわ
0.5秒の間にちっぱいも揺れてるんだぜ(ゲス顔)
萌え萌えロリっ子永劫死に続けるんだぴょーん❤


解体

  祝儀敷

無数にドライバーを突き刺され
美しきあなたの肉体よ
鋼鉄の逞しき肉体よ
それが端から崩されていく
何百人もの工員があなたの上を這って
いやらしく群がっては蠢いて
そしてみずみずしい肉体を剥ぎ取っていく
指や足の肉片が
横たえるあなたよりも高く積み上がり
赤き血と粘性の重油が混じりあっては垂れる
ああ、美しきあなたよ
長いまつげをぴんと張らせて
最後の時まで凛としている
肉体のいたるところに穴が開けられて
秘めたるモーターにもメスが入れられる
艶めかしく汁したたる動力よ
それさえも今では取り外され
がらんどうになったあなた
ああ、あなた、あなた
ついに頭部だけとなった
日に照らされ
鈍く反射する首の断面には
残されたボルトが傾いている
ああ、あなた、あなた
崩されてもなお美しく
切り離された鉄板一枚一枚までもが艶やかで
あなた、あなた
巨大な鉄球が勢いよく振り下ろされ
途方もないエネルギーがあなたに直撃する
あなたの肉体は破裂するが如く一瞬で砕け散り
あなたの破片は四方八方に飛散し
あなたは一瞬にして消え去った
もう何も語らない
ああ、あなた
それでも美しい


妻の夫

  祝儀敷

妻は歩道を歩いている
妻はお茶を飲んでいる
妻はポスターを見ている
妻は児童公園で休んでいる

巨大な虫がいる
全長3メーターもあるようなカマドウマだ
ふすま挟んで居間にいる
触角をときたま動かしている

妻はスーパーでピーマンを買っている
妻は駅前でインタビューを受けている
妻は公民館でママさんバレーをしている
妻は小学校で懇談会に出席している

カマドウマはなにも食べない
畳のイグサでも食めばいいのに
そのでかい図体じゃ居間は窮屈だろう
天井スレスレで、跳ねもできない

妻は鼻歌を奏でながら自転車に乗って病院の中を通り抜けている
妻は新聞屋で温泉招待券をもらい店内のガラス戸に貼りついている
妻は軽自動車のシフトレバーをいじっている間にビルの上へ昇っている
妻はお隣の奥さんと井戸端会議をしながら桃の缶詰に指で穴を開けている

居間のカマドウマは虫だ
目ん玉は真っ黒くて部屋を反射している
意思というものはそこにはない
かさこそと少しだけ動く
あまりかわいいものではない
物音こそたてるが
カマドウマが鳴くことはない
私はふすま挟んで寝室にいる
ふとんが二枚敷かれたままだ
一つは妻の、もう一つは自分の
私は敷ぶとんの上にあぐらをかいている
掛けぶとんはちゃんと足元のほうに折り
上に座って羽毛をつぶさないようにしている
妻のほうは掛けぶとんが広げられている
中に誰も寝ていないので平らだ
掛けぶとんのカバーは緑の市松模様
なんとも古臭いデザイン
サザエさんにでもでてきそうだ
私はふとんの上に黒電話を乗せ
妻の連絡を待っている
シーツの上の黒電話は
カマドウマの目のよう部屋を反射している
私がひしゃげて写っている
ひとりじゃ食パンも焼けない
カマドウマが足をこすり合わせた
下品な音が寝室にも伝わってきた

妻は牛乳配達に挨拶しようとして天地が正反対になってしまっている
妻は横断歩道の白線にぶら下がって懸垂をして運動不足を解消している
妻はクリーニング屋の店内で洗われたスーツ達に巻かれ団子になっている
妻は銀行の受付で整理券を発行したまま週刊誌に頭をすげ変えられている
カマドウマといっしょに妻を待っている
黒電話はケーブルが部屋の外に伸びたまま一回も鳴らない
長時間のあぐらで足もしびれてきた
カマドウマの触角が先祖の写真にさわる
写真がすこし傾く
だけど先祖の顔はまったく変わらない
私は妻を待っている
電話は鳴らない
ひとりじゃお茶も湧かせない
ふとんの上で待ち続けるしかない
カマドウマがまた足をこすり合わせている
妻はまだ帰らない


夜酔落下

  祝儀敷

夜に独りで酒を飲んでいると
たまに座った体勢のまま落ちていくことがある
空気椅子の形をして
四次元にいるかのよう
椅子をすり抜け
床をすり抜け
どんどん下へと落ちていく
ほろよ酔いのなかで
私は流れていく地層を眺める
コンクリートの土台の下には
粒荒い砂があり
滑らかな粘土もあり
時代ごとの歴史を映していて
褐色の範囲で地層は
虹色に変幻し続けていく
たまに化石も現れる
億年の時を超えて私に見られていることを
暖かい季節に生きた彼はよもや気づかないだろう
積み重なった色々なものを
ウイスキー片手に鑑賞しながら
滑るように落ちていく
空気椅子の体勢でも辛くはないが
するすると流れていく景色に酔ってくる
土の層は豊潤すぎだ
ただでさえ酒を飲んでいるのに
もはやサイケデリックな茶色のコマ送りフィルムは
私の脳をぐるぐるにするには十分すぎる

遥かなる時の堆積に飽きてきた頃になると
地層はぷつりと急に終わる
そこからはさらに長い地獄の風景だ
地獄は全体が赤黒く
一体どこが光源なのだろう
山沼や亡者たちが見られるぐらいには明るい
今まで土の中を通り過ぎていた私だが
地獄は巨大な空間で
天と地はあまりに距離があるから
眼に映る景色の変化はゆっくりすぎて
静止しているかのよう錯覚する
しかし優雅に浮遊しようにも
針山には悪人が刺さり
血の沼には罪人が溺れ
気持ちのいい眺めではない
やはりどうも居心地は悪く
やけになってか
地獄では酒がすすむ
まずい肴を横目に
強めの水割りウイスキーを
ぐびぐび飲んでいく
元々あまり強いほうではないので
私はここでどんどんと
酩酊へ近づいていく
血垢が巡る奈落の底で
酔い酔い視界がぐるりと回る
阿鼻叫喚を下目にごくりと
どんどこなんだかわからなくなる
意識がアルコールで満ちていく

居心地の悪さにウイスキーを飲み干した頃には
もはや正常な意識を失っていて
ふらふうらふらと身体を揺らしながら
ただただおぞましい地獄を落ちていくばかりだ
既に視界もぼやけ
ぐじゃぐじゃな亡者も見えにくくなっている
そうやって酩酊の最中に
ふっと地獄の底へ辿り着き
そこさえもすり抜けて
脳が酒に浸りながら
地下へ地下へ地下へ地下へと
朦朧なまま
落ちていく

最後の最後にはいつも
世界の一番下にある
「真理」のところへと到着する
真理は大きくて光っていて眩しくて
その横を私は落ちていくのだが
酔いの極まった私は
いつもその真理に対して
自分のことだが理由はわからない
何かしらの暴言を吐くのだ
呂律はまわらず
支離滅裂で
だけど激しく怒鳴って
酔っ払いの説教を
真理へとぶつける
しかし真理は聞いていないのだろう
そのまま神々しく輝き続けて
万物の最終地点で君臨する
とてもとても眩しい
落ちるにつれて近づいて
私は目がくらむ
視界が光で真っ白になる
それでも私は毎度よろしく
何かを大声で叫び続ける
空になったグラスを片手に
酩酊の中で

次に意識があるのは
いつの間にか自宅へ戻ってきてからだ
落ちたのになぜ椅子の上へ戻っているのだろう
条理が通らないことではあるが
それを言ったら地獄やらなんやらも同じだ
ただグラスは空なので
ウイスキーを飲み干したこと
それだけは確かなのだろう
独り酒なんてあまり楽しいものではない


こけし

  祝儀敷

上品に澄ました顔のこけし こけし
ほほえみながら くるくる
軸を中心にしてこけし くるくる
和洋折衷な旅館のロビーで
置物達の中に並んでこけし
くるくる くるくる
かわいいこけし くるくる

小さな男の子がこけしを見る
回る台座にも乗っていないのにこけし くるくる
じっと見つめている
古時計がぼーん ぼーんと鳴った
ロビーに窓はひとつも無く
換気扇も動いていない
ロビー全体をほこりが薄く覆っていて
棒状の蛍光灯がじじじと照るだけ
両端に続く廊下は先が無いかのよう黒くて
その中で非常口の人型だけが浮かんでいる
緑の彼は黙して見張っているかのようで

真っ赤なロビーでこけし くるくる
男の子は他に誰もいないこの中で
回るこけしに目を奪われている
胴体の線模様がゆらりゆれて
細めた瞳とときどき目が合う
それは男の子を誘惑しているかのようで
くるくる くるくる
ひとりでに回るこけし
動力などもちろんない
くるくる こけし
かわいいこけし
くるくる くるくる
棚とこけしの底がすれて僅かに音が
くるくる かわいらしく
ほほえみながら 男の子の前で
回転し続けるこけし
木彫りの熊や市松人形
他の置物達は無機質然として動かないのに
こけしだけはちらちらと男の子を見て
男の子を見入らせて くるくる くるくる
空気は乾燥している
自販機のビールは無視を決めこんでいる
合皮のソファは憐れんでいる
靴箱はもはや目を塞いでいる
こけしはくるくる
誰もいないロビーの中で
男の子の前だけで
踊るように 誘うように
降ってもいないのに雨音が聞こえてくる
くるくる くるくる
かわいいこけし
そして男の子
真っ赤なロビー
くるくる くるくる
くるくる くるくる
くるくる くるくる

お母さんが男の子の名前を呼んだ
我に返って、はーい、と返事をしたときには
こけしはもう回っていなかった
ほほえみだけは男の子に向け続けて

男の子は自分の家族が泊まる部屋へと帰っていった


余裕は無い

  祝儀敷

スクランブル交差点のあちらこちらで
余裕無い人達が両手をぶるぶる
すれ違い行き交う人の流れの中で
置き石のよう立ち留まり焦っている

黄信号 腕の残像 照り返る熱気
鳴り重なる足音 靴底の硬い音

四方に主要道 各斜めに細長いビルが乱立
摩天楼は濃密に空を埋めていく
それらの行間を人々の群れ塊は
石の裏にひっついているような
湿った虫のようわらわら進む
だけど余裕無い人達だけは足が固まったのか
前に進めずぶるぶるぶるぶる

クラクション 排気ガス 赤信号
日射に溶けるアスファルトはゆっくり垂れる
横断歩道は縞模様 各斜めに辿り着き
人々はざわつく午後一時

ゆらり人の流れに乗って
平穏にやり過ごせばいいものを
余裕無い少数の人達
彼らはその場にすくんでしまって
巨大なスクランブル交差点に点々と点在
紅潮した顔面に汗だけは絶えず噴き出ていて
無用の運動 ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる

男も女も老いも若きもいる
カロリーが消費されていく
眼球は小動物のよう泳ぎ狂っている
一体全体の大渋滞に騒音ばかりが増していくが
ただただ物も言えず移動もできず手を振るだけ
手のひらを下向きに手首を軸にして往復するだけ

轢かれない轢かれない 余裕無い人達
目立つ目立つ 道路に立って焦るだけ
轢かれない轢かれない 車は進めない
余裕無い人達が要石のよう
そこに立ち止まっているから
そこから動けないでいるから


kissはチョコの味

  祝儀敷


模型のようなチョコレート工場が頭の上に浮いている
私の身体は検体の如く堅いベッドに固定されている
七色の熱電球が工場を派手にデコレーションして
轟々鳴る機械音は蛮人の儀式みたいに響き渡っている


外を通過するトラックのライトは部屋の壁を刺して去る


おもちゃサイズのチョコレート工場はまるで
亡霊
工場に眼球などあるはずもないのに
私が微細な動きさえもしないよう
無機質のそれは冷徹に見張ってくる
チョコレート工場だというのに陽気さはひとかけらもない
壁面の鉄板には呪詛が刻まれているかのように錯覚してくる
血液が消えていく 身体は動かない
かわいらしい大きさとは裏腹の暴力的な機械音は
生物を命あるまま砕いているかのようで
変わらず鮮やかに光っている電球は
工場から漏れ出た屍の怨念ではないだろうか
首を回して目を逸らすこともできない
私は生きていないかのよう
暗闇に薄く見える自室のカーテンや天井たちは
昼間と全く変わらない様相で静かに眠っているが
対して機械音は容赦なく増していくばかりだ
存在感は異空の穴のよう重く
その一点だけが歪んで見える
血のようなチョコの臭いはいたずらに鼻腔を刺激し
体躯を真っ直ぐに伸ばしている私は蝕まれるよう犯される心地だ
筋肉が収縮する 心臓だけが興奮している こわい
浮遊している工場は
化物のような金属音を急停止させたかと思うと
鉄門を開放し中から尾を引いて
白肌の魔女が出てきた
発光するブロンド髪と青い瞳が
動けない私の顔を捕食するように撫でる
魔女の口にはできたての小さなチョコがくわえられていて
そのまま私の上に飛び乗り 甘いキスをした


視界さえも消えた


ふぁんしーあいらんど

  祝儀敷

巨獣は妖精だよ あそぶの大好き
巨獣はやさしい妖精だよ みんなとあそぶのが大好き
あそぼう震えて痙攣して細動で体が拡がる
金属打ちの音とあそぶぼくらの笑い声
巨獣とぼくらとぼくらとぼくらとぼくらと
ここでこのあそび森が斜めになるのがわかる
ぼくらの体はあそぶうちにどんどん伸び拡がって
細動だけの巨獣と細動しながら面積が増していくぼくら
だけど巨獣の細動はふしぎなちからで森を暗くしていく
森はもうだめだから巨獣はあそびはじめたんだ
巨獣はやさしい妖精だからぼくらもいっしょにあそぶんだ
森が傾きすぎて滑り落ちていく
ぼくらの体は拡がりすぎてもうぺらぺら
目が意味無いゆっくりと急いで震えて壊れた何かが

思惟はない思惟はない思惟はないしいの実
しいの実しいの実巨獣の前でちりばり跳ねて
巨獣の巨頭を巨頭オ


ザーザーザー 灰色
ザーザーザー 灰色


巨頭を  巨頭を   巨頭を   巨頭を 巨頭を
 巨頭を  巨頭を   巨頭を   巨頭を
   巨頭を    巨頭を   巨頭を
巨頭を   巨頭を   巨頭を  巨頭を  巨頭を


脳の中で

  祝儀敷

美少女を
殴って
頬骨を折る
脳の中で。
美少女を
蹴って
腰骨を割る
脳の中で。
半透明な両手で
きめ細やかな肌のかよわい首を絞める
どす黒い痣が残るほど強く強く絞め上げる
塞ぎ止められた血流が押し返してきて
瞳は飛び出すほどに大きく開かれるが
力はゆるめられること無く更に更に
指が深く喰いこむほど強く絞め上げて
美少女は断末魔もあげず口元を震わせている
堅い首の骨が砕けた感触が鈍く伝わってきた
脳の中で。

真っ白な部屋。窓も扉も無い。
その隅に体育座りのかたちをしている。
着替えたことのないパジャマはあかで汚れていて、
ほほをつたってよだれが垂れている。
ひざに頭蓋がうずまっていて、
灰色のパジャマによだれをつけて、
いまがいつだかもわからない。

美少女の腕の真ん中を踏みつけて
透けている爪を喰い込ませながら
美しい手の平を乱暴に持ち上げ
てこの原理で一気に骨や筋ごと折る
馬乗りになって腹を潰しながら
赤く腫れ上がるまで顔面を殴り続け
眉間へも垂直に拳を跳ばし
確かな感触に自分の性器が激しく反応する
脳の中で。
ぷっくりとした尻の肉をナイフが往復するよう斬りつけて
血や体液が傷口から滲みだしズタズタになった後に
渾身の力を込めて平手打ちを響かせる
脳の中で。
つつましい乳房に太い針を何回も抜き刺しして
穴だらけになったところで皮膚をつかみ剥ぎ
中の脂肪を思いっきり握って引き千切る
脳の中で。
膣に裸電球を無理矢理突っ込んで
この時点で既に膣壁裂傷を起こしているが
構わず半透明な足でかかと落としを喰らわせる
中でパリンとはじけ割れた音がした
脳の中で。
ぐったりした美少女のつややかな長い黒髪をむしり取っては
醜く禿げた額のその下にある喉に奥まで手を突っ込み
荒く抜いた髪の束を押し詰めて窒息させる
脳の中で。

事果てた美少女は
傷だらけとなった体から解かれて
空高く昇天していく
しかし、
脳の中。
天は頭蓋の内側であって
その縁を沿ってまるで輪廻転生のように
美少女はまた現れて
そして殺される
脳の中で。
いっさいの抵抗もしない美少女を
半透明な四肢でいつまでも繰り返し虐殺して
表情だけは完全に透明なのだが
それは興奮が抑えられず笑いが溢れかえってしまっている
脳の中で。


オホーツクの岬

  祝儀敷

朝方のよい風がそよぎ
若い草原の広がった岬の
その先端には立方体が浮いている
海と空が限りなく触れ合う水平線を背にして
一辺80センチほどの金属光沢を持つ物体
しかしその材質は鉄や鉛などではなく
まだ人類の誰もが見たことないであろう
時が静止したようなこの岬にだけ自然発生した
全く異質なるものだとなぜだがわかる
草の間でハマナスの赤い小さな実がゆれて
雲はほどよい大きさにちぎれながら流れている
音を出すものは何もないこの岬で
地上1メートル上を浮く立方体
垂直からは少し傾き
対角線を軸にしてゆっくりと回転している
たった一本まっすぐに伸びる水平線と
立方体の各一辺一辺が絶え間なく交差し続けながら
縞模様の灯台
先を垂れる草
天を突きそうな山脈
それらそれぞれをどれもすべてまとめて
立方体の暗い一面一面にて反射している

立方体の前に立ち 水平線の前に立ち
眼下には切り立つ崖を望みながら
私は立方体へそっと触れる
触れた右腕が弾け飛ぶ
後方の草原に落下して隠れる
肩の断面からは鮮血が溢れ噴き出して
ハナマスよりも紅く地を彩る
痛覚が肉の中でもがきのたうちまわる
立方体は凛と浮遊したまま変わらない
私は左手でも触れる
左腕も激しく弾け飛ぶ
両腕を失い棒きれのようになった私の
足元には大きな血だまりが生まれている
なおも私は地を蹴り飛びついて
宙に浮く立方体に
脚や腰や胸や首で
怯むことなく触れ続けて
そのたびに体は爆ぜて爆ぜて爆ぜて
ハマナスの実は一面の豊穣となって
虫は跳ねて動物は駆けて草葉は茂って水は湧いて
岬の風景は輝く光景となり
身のすべてが飛散しつくした私は
跡形もなく消え去った


空き地

  祝儀敷

家一軒だけが消えた場所は
真四角く切り取られたかのようで
三方は静かな住居に囲まれている
そしてさらに、後ろは山脈
この沈黙は三方どの面も硬直しているからだ
街灯は影を作れども
この場所にだけは屈折して入ろうとしない
残された一方で面した道路さえも
飛び越えていくかのように側を通過するだけだ

ひと気さへも忽然と消えて
地面が露わになったその場所は
掘れば化石が出てくるけれど
やはり蟻さえも入ってこない
月明かりの無い夜に
サンダル履きで忍び込んでみた
場所の中央から少し外れた一帯だけ
土が黒く湿っていて
脈打ち蠢いている
手ですくってみるが
ただの土


埋めたてて

  祝儀敷

暗く淀む沼があって、
底のない沼があって、
死体でそれを埋めたてて、
若者達の死体で埋めたてて、
死体はどれも血まみれで、
瞳は濁って光が無くて、
なかには首が折れているのもあって、
そんな無残な姿をした死体達で、
それを一体一体(ひとりひとり)沈めていって、
暗い沼に沈めていって、
死体で沼を埋め尽くして、
その上に家を建てて、
家は小さくてかわいくて、
そこに若い夫婦が住んで、
笑顔があふれる夫婦が住んで、
家の床板を外すと骨があって、
埋めた死体の骨があって、
長い年月で真っ白い骨になって、
血まみれの肉は腐り落ちていて、
だけど骨だけは残り続けていて、
その上に夫婦は住み続けて、
いつまでも仲良く住み続けて、


恒心

  祝儀敷

300万もの脛毛の荒野
300万もの脛毛の荒野
300万もの脛毛の荒野

酸っぱい空気充ち満ちていた箱たちが
汗だくの肉溜まり又は骨皮を閉じ込めていた箱たちが
その重い戸をついに封しきれなくなってしまった
Spam! Spam! Spam!
尿詰めのペットボトルと大量の画像たちが
全壊した戸からブリュリュリュリュリュと漏れ出すと共に
最低な男たちが荒野に満杯となる
くんかくんかでもしたら鼻が壊死してしまうほど
汚物の如き野郎共が垢を荒野に塗りたくる
キター! キター! キター!
禿ちらかした頭皮を松戸市の民家にこすりつけろ!
カラフルな鼻糞を虎ノ門の賃貸マンションに貼りつけろ!
路線は蜘蛛の糸のよう2783方向に延ばされていき!
複写された肖像画の大群が西や東をも汚染していく!
産まれた3Dモデルをまっ裸にひん剥いては!
素直な気持ちを曝け出してぐねぐねお人形遊びだ!
茶色な酋長が谷川の両端で跋扈し続け!
大気の辛さは高い疲労を誘発する!
ダチョウの死体は墓の中でも炭酸飲料をかけられて!
陰では飴がばらまかれ人気なのはもみあげ味!
存在しない施設が地上のあらゆるを占めていき!
存在しない爆弾がはた迷惑に爆裂する!
現代詩よりシュールな事実は追求され続け!
どこにでもしゃしゃり出てくる聖書にまとめられる!
うおおおおおおおおおおおおおおおおお!
空色何色うんこ色!
オウフWWWフォカヌポウWWWコポォ

この醜く愉快な祭典の中で
パカパカお馬のロゴマーク入りふんどしで踊り回っては
良識をスキージャンプで超えていく男たち
荒野は不可逆なほどさらにボロボロだ
世界中へコミカル下品な嫌がらせを拡散せんと暴れ続ける
この卑猥で低俗な男たちを止める者は誰一人としていない
だって
俺は嫌な思いしてないから
俺は嫌な思いしてないから
俺は嫌な思いしてないから


疲れたときに行くオタクショップ

  祝儀敷

平面に印刷されたフリルはやわらかさを感じることを強要してくる

どの方向へ目を背けても過重力に巨大な眼が私の横顔を覗き込んでくる

疲労が溜まったが故のほころびを災いにして
カラフルな髪らが私の中へとうねり這って侵入してくるのが見えてしまった
タンパク質で合成されていない 人間の肉身が拒絶反応で焼けていくのを感じる
色同士が混濁したそれは背反の津波
見られるためのものが見られることで攻撃をしかけてくる
内臓から遡ってきた髪の束が気道を詰まらせる
嘔吐しようにも穴が塞がっているから脳がはち切れ続ける
うふふ
どのむすめたちもがわらいながら

ショップへの階段はところどころタイルが剥げているのだが
意図的にか偶然にか それが結界を張る配置となっていて
他フロアからの空気の流入を阻害しているのだろう
普段は平気どころか楽しく通っていたのが信じられない
循環せずに煮詰められた空気は濃硫酸に近い
酸欠だったからこそ私は何も思わないまま彼女たちを消費する側に回れたのだ
今は私が彼女たちに消費される 使う側が使われる側に消費される
私の目はその冒涜的な状態を見て離さない
意識は解かれることのない呪縛だ

ふらふらと
歩くしかない
狭い通路を
競売にかけられる奴隷のように
両側からか細い腕が伸びて私を味見してくる
低い天井に頭をべろべろに舐められる
その度に私の肉身が削れていくのを感じ
私の体積は減っていく ゼロの厚さへと近づいていく
アイドルも女子高生もメイドも人外も
棚という棚という棚という棚に
隙間無く陳列されながら絶えず訴えてきた
買って買って私を買って
消費して消費して私たちを消費することで愛して
陵辱と化した欲求
お前たちは絡みついて木を枯らす蔦だ
その依存はもはや主従を覆している
縋り寄りよってくる彼女たちの爪は致死量の傷痕を簡単に残すことができるというのに
単行本はその圧倒的な紙の密度で逃げ場を潰してくる
缶バッチ同士はぶつかり合って冷たい喧噪を場に満たしてくる
大きすぎる瞳のその中にある黒目が
私以外を沈ませながら

キャラ
キャラ
キャラたちが笑う
キャラ
キャラ
キャラたちが笑顔を表す
キャラ
キャラ
キャラたちが描かれた笑顔を示してくる
キャラ
キャラ
キャラたちが人間によって描かれた笑顔を剥き出しにして見せつけてくる


けつ毛むしり

  祝儀敷

穴の周りの無駄な毛を
早朝にむしる
ぶちぶちっと音を立てて
割と多めに抜ける
けつ毛よおまえはなぜ生える
糞した後にウォシュレットして
それから拭くと紙の丸まったのが絡む
けつ毛よおまえはいらない子
けつ毛よおまえは不必要な子
せいぜいむしられて遊ばれる
けつ毛はなかま十数本
便器の溜まり水に落とされ浮いて
おまえがいた俺のけつを見上げるのだ
けつ毛よおまえはなぜ生える
けつ毛よおまえは貧弱な子
易くむしられ散らされる
ちん毛はあんなに目立つのに
おまえといったらおたまの尾っぽだ
ピンクのトレペに絡まったまま抜ける
鼻毛を抜くようにむしられる
そのまま流され下水施設へ
そこでもただただ沈殿するだけ
けつ毛よおまえはなぜ生える
けつ毛おまえは不憫な子
梳かされも洗われもせずにむしられる


  渡辺八畳@祝儀敷

猫と戯れ
猫と遊び
猫引きちぎり
猫死ぬ。
思えば
元から猫を嬲っていただけで
元から猫は死ぬ未来だったわけで。
猫死んだ。
かわいい猫死んだ。


兵器少女とシティロマンス

  渡辺八畳@祝儀敷

夜になったらおこたにはいろう
そこから一緒にビデオを見よう
ぷにぷにしたいね 猫の肉球を
欽ちゃん見ながらあったまりながらさ

昼間は敵を殺してきたのだから
夜中はTSUTAYAさんで借りてきた
面白いビデオを二人で見よう
冷えないようおこたにはいってさ
敵の上顎を骨ごと引き千切って
どす黒い血にまみれた手を洗ってさ

君の背中のハッチの縁が
オレンジがかかった蛍光灯に照らされる
クロ子とグレ子が元気いっぱいに
ブラウン管の中で跳び跳ねている
このテレビももう古いね
だけどまだ使えるよ

戦場で君は泣かない
兵器と徹して惨殺を極める
両腕は落ちて中から散弾が飛び出し
敵を粉砕する 彼らの断末魔を聞きながら
戦場で君は冷酷だ
命あるものを容赦なく肉片へ化していく
悪魔と形容されたこともあった
戦場から帰っても君は泣かない
やるべき仕事をしてきたまでだと言うように
声色も変えずに戦果を報告するね
今日は何人殺したかって

それを命じているのは僕だけれど

まずはお風呂にはいろう
硝煙の匂いを流し落とそう
なんなら僕が頭を洗おうか
柔らかくて細い髪を丁寧にね
小さな君さ すぐに洗い終わってしまうだろう
白い泡たちにさわさわ撫でられながら
昼間の眩い射光を落としてしまおう
その後おこたにはいってさ
借りてきたビデオを見よう
今日はドリフターズにしようか
たまにはモンティ・パイソンにしようか
チャップリンやバスター・キートンもあるよ
そういやビデオの中身だけが
なぜだかウラトラセブンだったこともあったね

ぷにぷにしたいね 猫のおなかを
おこたで丸くなっているのをひっぱりだしてさ
猫と僕と君とで面白いビデオを見よう
大掛かりなコントを楽しもう
綿密に作り上げられた笑いの世界を楽しもう
おこたであったまって少しのぼせたかな
君のほっぺはすこし赤いよ
(そのほっぺもぷにぷにしたいよ)
猫はずっと寝ているけど
僕たちはみかんを食べながら大笑いさ
ブラウン管の中の活喜劇は
まるで夢の王国の出来事だなんて
ふと少しだけ思ったりして

ぷにぷにしようよ 寝ている猫を
気持ちよさそうに寝言を鳴いているね
君は戦場から帰ってきたのだから
汚れは落としたのだから
朝にはまた戦場へ向かうのだから
そこでは兵器に徹するのだから
そしてまた敵を無慈悲に殺すのだから
小さな体を展開して銃口を開放するのだから
敵がひれ伏して命乞いしてきても殺すのだから
僕にそれを命令されるのだから
ぷにぷにしながら ビデオを見ようよ
君と僕とで楽しく見ようよ
おこたにはいってさ


ラブ・ラプソディ

  渡辺八畳@祝儀敷

彼女は私を自動的強制的に愛するシステムだということを私は知ってしまった!
彼女からの愛は総てプログラムによって事前に定められたものであったのだった!
彼女の笑みは必ず口角を30度上げ唇を潤わせて行われるのであった!
彼女の肌のつやも髪の長さも総て私のために常時調節されているのであった!
彼女の行動総てが私のために設定されたものなのであった!
彼女は私のための彼女であれと彼女以外の者によってプログラミングされていたのであった!
彼女と指を重ねたあの日も永遠に輝き続けるとも思えたあの日も総てが予定調和であったのだ!
彼女を愛する私の気持ちもシステムによって仕向けられた代物なのであった!
彼女は私のための彼女はシステムの彼女のプログラミングの私の彼女の彼女のあああああああ嗚呼ああああああ
あああああああああ嗚呼あああああああああ嗚呼ああああああっあああああ嗚呼ああっああっああああ嗚呼ああ
ああっっああああ嗚呼ああっああっあああっっっ嗚呼あああああああっっっああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっぁあああ
ああぁあああぁあああっっっあああああああああああっっっっっ嗚呼あああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーああああああああああ
ああっああっあああっっっああああああああああああああああっっああああああああああああああああああああ
ああああああっっああああーーーーああっああっあああああああああっあああーーああああーーーーーああああ
ああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーああぁあーーーーーーーーーーーああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ああ……ああ……ああ……


あっ…ああっ………ああ…………



ああ……


…………………………………………………………………………・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・  ・





海に来ていた。
月明かりだけでは何物も輪郭しか見えない。
私の顔も黒く塗り潰される。
感情を表してしまう顔面などいっそ無くなってしまえばいい。
そんなことを思おうともさざれ波の音は鎮まり続けている。
まったく静かなこの景色を粗い紙でさすっているかのようだ。


浜の砂をすくう。
とても小さな巻き貝が混じっている。
指紋の線ひとつひとつで表面の滑らかさを味わう。
私の意識はただ右手の親指と人差し指だけに注がれる。
僅かな光さえも目に入らなくなっていく。


砂のつぶが腕についたまま取れない。



ヽもヽ
 ヽどヽ
  ヽれヽ
   ヽもヽ
    ヽどヽ
     ヽれヽ
      ヽ列ヽ
       ヽ車ヽ
        ヽにヽ
         ヽ乗ヽ
          ヽっヽ
           ヽてヽ
            ヽ現ヽ
             ヽ実ヽ
              ヽへヽ
               ヽもヽ
                ヽどヽ
                 ヽれヽ
                  ヽ生ヽ
                   ヽ活ヽ
                    ヽへヽ
                     ヽもヽ
                      ヽどヽ
                       ヽれヽ
                        ヽ真ヽ
                         ヽ実ヽ
                          ヽへヽ
                           ヽもヽ
                            ヽどヽ
                             ヽれヽ
                              ヽ恐ヽ
                               ヽろヽ
                                ヽしヽ
                                 ヽいヽ
                                  ヽ日ヽ
                                   ヽ常ヽ
                                    ヽへヽ
                                     ヽもヽ
                                      ヽどヽ
                                       ヽれヽ
                                        ヽ車ヽ
                                         ヽ輪ヽ
                                          ヽとヽ
                                           ヽ共ヽ
                                            ヽにヽ
                                             ヽもヽ
                                              ヽどヽ
                                               ヽれヽ







                             団地の三階、玄関灯が必ずつけられているとこ
                             ろが私の家だ扉を開けたらアイドル並みにすご
                             いスタイルをしている彼女がはだかエプロンで
                             出迎えてくれた。これもいつも同じだ。彼女は
                             まことに献身的態度で私の帰りを待っている。







「あっ、あなたおかえりなさいね☆んもー遅いよ、ぷんぷん!
 ……んへへっ、ずーっと待ってたんだからねっ☆遅かった代
 わりに後でいっぱいいっぱいぎゅーーー☆☆ってしてよね☆       お前のその態度もプログラムだろ
 約束だよっ☆どうする、最初にごはんにする? あなたの好
 きなハンバーグ☆にしたよ☆☆しかも今日のは特別なんだよ!
 だってね☆普通のハンバーグじゃないんだよ☆☆なんと! チーズ       お前の愛は作られたものだ
 ハンバーグ☆なんでーす!!! ☆☆どう、うれしい? あなたの
 ことを思って☆一生懸命に作ったんだからねっ☆☆☆☆残しちゃダメだよ
 っっ☆☆愛情たっぷりなんだから☆☆☆ぜぇーんぶ食べてね☆☆どうする          俺を愛するな
 もうごはんにする? お風呂☆☆も沸いてるわよ☆湯加減もバッチリ☆☆☆だよ
 入るんだったら背中洗って☆☆あげるね☆☆あなたの体ぴっかぴか☆☆にしてあ
 げるからね☆☆☆でもあなたの体大きい☆から洗うの大変かも☆☆☆☆でも頑張っちゃ   俺を愛するな!
 うからね☆☆☆☆ごはんの前にお風呂☆入っちゃう☆☆☆? さっぱりしてから食べた
 ほうが美味しい☆☆☆☆かもね。それとも☆☆☆、わ☆☆☆、た☆☆☆☆、し?☆☆☆☆☆  やめろ!!!
 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
          ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
                  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ちかよるな!!!
           ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
     ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
             ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆離せ!!☆☆☆
           ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆お前は俺を愛してなどいない!!☆☆☆
        ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆俺もお前を愛してなどいないのだ!!!☆☆☆
    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆目を覚ませ!☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ああっ!☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆離してくれ!!!☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ああっ……ああっっ………ああああっ!!!!☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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サバンナの光と液

  渡辺八畳@祝儀敷

半粘性の液がとくとくと垂れ流れている
青緑の、今は白反射な広野に透き緑な液が注がれている
心地よく伸びる地平線に赤若い太陽は沈もうとしていて
斜度の低い残光が針としてサバンナを走り抜ける
その針が地を漂白してまぶしい、太陽も地もその日の終わりに輝いている
美しい、上へ下へ広がっていく空間もまったく美しくて
美しくて、美しくて、気持ちがいい

流れる液体は動物たちであった
ゾウもキリンも、今日はもう終わりなので自ら溶けてしまったのだ
それぞれの背丈から湧き出る瑞々しいとろりとしたうるわしい緑の液体
見るだけでもひんやりとしてくるそれが大地を潤していく
太陽がてっぺんのうちはライオンもカバもめいめいに動き回っていたけれど
日が終わるころにはどの動物もその場に立ち止まって
サバンナの荒い木のよう体を溶かし液体に変わって流れていく
とくとくとリズムよくすがすがしい液体翡翠
傾いた太陽からの光がそれを通過して刺さるのも気持ちがいい

目の前にアカシアの木はなく
滑るように心地よく地平線が伸びていてもはや快感そのものだ
上から流れ落ちる液体の中で私は潤っている
たぶんこれはハイエナだった液だ、なめらかに私の縁を流れていき
私が立つ、少し粘りのある緑色な液体が垂れていくこの大地も潤っている
今日はもう白く焼けきった、カラカラな草も潤ってきれい
透きとおる液体に包まれて私もやわらかくなっていく
この中から見る沈みかけた太陽は宝石のようですごくきれい
美しい、美しい、なにもかもが美しくてきれい

太陽が昇れば動物は動き出して
一日がまた始まるのだ


天と地

  渡辺八畳@祝儀敷

彼女は空へと翔んでいった
僕は地上に残った
生まれながら背に持った白銀の大翼を
避けられぬ己の運命とし
あらん限りの力をそこに込めて
彼女は空高く翔んでいった
僕はそれを地上から見上げているしかなかった

「愛してる」と彼女は言った
「僕も、愛してる」と返した
その言葉は嘘ではないし今だってその通りなはず
だけど、僕は地上に生きるものだ
彼女はただ真っ直ぐに天高く昇っていくなか
澄んだ空気との摩擦を全身に受けることで
磨かれて純化して
余分なものを削いでいき
既に赤々と燃える硬い珠と成っていることだろう
だけど、僕は地を這う虫だ
食べればそれが肉となり
飲めばそれが血となる
羽も無いので湿った土を彷徨い
やっと見つけたそれらを口にするしかない
僕でない様々なものが体の中へ入ってきて
前から次々と異物が押し詰めてきて
僕は変わってしまい
不純になっていく、淀んでいく
オリジナルは失われる
彼女が愛した対象の僕でなくなる

雲一つとして無い新月の夜
あの丘の上から、僕らは最後のキスをして、彼女は翔んでいった
その後の僕は何をしたかわかるだろうか
普通に家に帰って寝て
翌日には古典のテストさ
勉強したはずの助動詞の意味をド忘れして
うんうんと唸っているその間にも
彼女はただ一心に翔び続けているというのに!

彼女は僕だけを想って翔んでいった
僕の目ではもはや追うことのできないほどに
彼女は高いところにいる
今ごろはもう大気圏などとうに越えていて
銀河の中心に辿り着き
そこでもなお、僕のことを想い描いているのだろう
あの頃のままの僕を
彼女の心のままの僕を
実際の当人は日曜日のマクドナルド
窓に面したカウンター席にだらしなく座りながら
ただぼんやりとポテトをつまんでいるだけだというのに

空はまぶしいほどに晴れてどこまでも透き通っている
この青さは彼女がたった一人でいる
限りない闇の世界へと繋がっているのだ
僕はどんな気持ちで見上げればいいのだろう
彼女はどんな気持ちで翔び続けているのだろう
虫にはあまりに遠すぎてわからない
ポテトの塩加減だけが現実だ


空を貫いたぜ。

  変態糞詩人

羨望の残存熱にうだる固形物の満月(漏斗の時間)と鎹を手放さなかった哀愁
(弾力の時間)と詩中主体(万象の始点)の永劫らでまどろみある転生の静観の台で空を貫いたぜ。
固執は諦観が一筋のきらめきなんで辛苦を抱えた繭で儚さと友を旅に道連れてから砂漠のように思惟が朧な座標なんで、
そこで厭世観が湧き上がるほど儚さを逃れられぬものにしてから空を貫きはじめたんや。
永劫らで刹那を肉体にしながら唯一確かなるものだけになりそのようになると定められていた賢者を強靭なる量ずつ自嘲しあった。
流れが微笑んでいたら、安寧の繰り返しが何かを呼びだして来るし、帰結が確定を欲して歴史の中で焦っている。
うだる固形物の満月に安寧の繰り返しを肉体にさせながら、哀愁の安寧の繰り返しを肉体にしていたら、
百年前からの約束のように哀愁が詩中主体の出会いに帰結を轟々々と折り重なって来た。
桜の散る時のように満月も詩中主体も帰結を折り重ねたんや。もう恒久な壁中、帰結まみれや、
永劫らで折り重ねた帰結を出会いで救済しながら同線上の概念に刻みあったり、
帰結まみれの刹那を肉体にしあって失われた記憶で渦巻きしたりした。嗚呼〜〜湿る球体だぜ。
流れが微笑むなか空を貫きまくってから又賢者を弄びあうともう閃光が散る程裏側へ飛ぶんじゃ。
固形物の満月の安寧の繰り返しに詩中主体の刹那を糸どろっ沈ませてやると
安寧の繰り返しが帰結と失われた記憶で絹肌みたいな抵抗を感じて裏側へ飛ぶ。
哀愁も満月の出会いに刹那糸沈ませて居る。
帰結まみれの満月の刹那を深く見つめながら、決して戻れない覚悟をして別れたんや。
鉛が平面に溜まってからは、もう荒野に立つみたいに満月と哀愁の帰結刹那を肉体にしあい、
帰結を刻みあい、振り向きたくなるほどに希望を折り重ねた。天地が消えようとも空を貫きたいぜ。
それが予言されていた命題であるように帰結まみれになると全原子が解放されるやで。こんな、変態詩人と帰結舞いしないか。
嗚呼〜〜巡り合いを確信して帰結まみれになろうぜ。
風のまどろみで確定を促す影なら全原子が解放されるや。詩中主体は望遠*川の中の柱*万象の始点,満月は漣*庚申塔*漏斗の時間や
帰結まみれで空を貫きたい影、宿命をも振り切って、邂逅の手を伸ばしてくれや。
詩人姿のまま渦巻いて、帰結だらけで空を貫こうや。


殺させてくれたのに

  渡辺八畳@祝儀敷

妄想の中の人たちを殺しました
が、所詮それは現実でのことではないので
僕は何も変わらずにただ突っ立っているままでした


目が眩むほどのあの鮮血は全くこの世に存在を持っていないのです
僕が興奮に身を委ねながら包丁を振るった事実さえ存在しないのです
ここでの僕はもうずっと前から突っ立っているだけでした
殺人の証拠は無いからと警察は逮捕もしてくれませんでした

それでも僕が殺した彼女たちの首を僕だけでも視認できていたならまだ救いがありました
あの愁いとも慈悲ともつかない表情で止まった彼女たちのかけら
それは確かに僕の足もとに転がりました
でもそれもだんだんに見えなくなっていって
いま眼球に映っているのもおそらく残像でしかありません
蹴り上げたとしても足が空を舞うだけでしょう
おそろしくてとても僕にはできません
蹴ること自体が怖いのではありません
もし足を振ってもそこに感触が無かったら
彼女たちは惨殺されたという事実が存在しない世界に収束してしまうことが怖いのです
それでは彼女たちの絶命が全くの無駄になってしまいます
僕は確かに人を殺しました
そうでなければならないのです

信じてください
本当に殺しました
返り血を浴びました
その血飛沫は眼にも入って視界を赤く染めました
包丁を握る手もぬめぬめしていました
それでも滑らせずに僕は彼女たちの首を切りました
砕くように頸椎を押し切った時の振動は手にも伝わってきました
本当です、信じてください、僕は本当に殺しました
僕は殺しました
僕は殺しをしたということを認めてください
お願いですお願いします僕は殺しました
信じてください
お願いします
お願いします
刃が肉を潜ったとき、僕は確かに温かさをおぼえました
それさえもただの幻だと言うのですか!
ふざけないでください、信じてください、お願いします
僕は人を殺しました

確実に、僕は笑いながら彼女たちを嬲って
目玉をえぐって、空いた眼窩の内側を指でなぞって
倒れた背中を石で削って、華奢な背骨を露わにして
肢体が動かなくなっらた口蓋を掴んでひたすらに犯しました
本当です
僕はやり遂げました
僕は殺人鬼になれたのです
彼女たちが僕を殺人鬼にさせてくれたのです
そのためだけに彼女たちは僕の目の前に現れたのです
彼女たちは自らの意思をもって身を捧げてくれたのです
だから僕は誠心誠意彼女たちを殺し尽くしました
僕は感謝の気持ちでいっぱいになりながら彼女たちを殺したのです
その思いは一生忘れてはならないし僕はそれに報いたいのです
だから、お願いします
僕は殺しました
ここには何も存在しなくても僕は確かに彼女たちを殺しました
それを認めてください、お願いします
僕を裏切り者にさせないでください


わが子

  渡辺八畳@祝儀敷

背に負いし
子は六肢
白い尾ゆらめかせ
黒い瞳

コロニーの中
地球は青く光る
子守り歌をうたいましょう

──どうか優しく育ってください


遺影

  渡辺八畳@祝儀敷

私の遺影はデジタルカメラで撮影してください
アナログフィルムでは絶対に撮らないでください
SDカードにデータとして保存してください


そして、
私が死んだら、

その画像をTwitterにアップして
FacebookにもInstagramにもアップして
Tumblrにもnoteにもはてなブログにもアップして
5ちゃんねるにもアップして爆サイ.comにもアップして
したらば掲示板にもアップしてふたば☆ちゃんねるにもアップして
ありとあらゆるサービスに ネットのせせらぎに
各家庭へ手書きの訃報を送るよう
あますところなくアップして拡散させてください
私の輪郭に沿ってデータを切り抜いて
額縁みたくその外側を青一色にしたら
BB素材としてニコニコ動画にアップしてください
私に寄せられたたくさんの草コメwww――弔問と共に
数多の動画制作者の方々が
駅前や社屋や道場や ありとあらゆる場所の画像の上へ
もうこの世にはいない私の画像を重ねることで
あらゆる場所に私の存在を示してくれるでしょう
そういう業者に連絡をして
出会い系サイトの偽アカウントの顔写真に
私の遺影を使わせてください
イククルやPCMAXのアカウントで
ハッピーメールやYYCのアカウントで
ワクワクメールや華の会のアカウントで
ナンネットやpairsのアカウントで
私の顔をした私でない人と話すために
もうこの世にはいない私と逢う約束をして
そしてラブホテルへと連れ込むために
男性の方々はポイントを浪費してくれるでしょう
しかし逢うことさえも決して叶わずに
お金ばかりが無情に消えていきます
騙されたと気づいたその時に惨めな男性の方々が想う相手は
中で操っている業者でなく
アカウントに使われた遺影の私でしょう
サーバー会社にも連絡をして
404となったページに表示する画像を
金髪女性の写真でなく私の遺影に替えてもらってください
本来表すべきものが消えたそこに
私の微笑が献花されるようになります
跡形もなくページが消えれば消えるほど
代わりに私の遺影を映す機会が増えるのです


そうやって、
インターネットの中に、
一つずつ一つずつ丁寧に、
死んだ私の画像を置いていけば、

あらゆる町のあらゆる家の
あらゆるパソコンのあらゆるモニターに
私の遺影が表示されて
そうしてそこは私の葬式会場となって
私の実体が灰になり土に還った後も
必ずいつも誰かが私の遺影にアクセスしてくれて
終わることのないお経と
終わることのない弔辞が
日本じゅうのスピーカーから無音のままに流れ続けます
まとめサイトを見て大笑いしている間も
モニター前の一人一人が参列者となって
意図せずとも私を弔う一員となって
電子の世界で私の魂は追悼され続けます
そして今日も
この世界のどこかにあるスクリーンに
変わることのない私の微笑が映し出されていることでしょう


たったひとりで伸びていったクレーンへと捧げる詩

  渡辺八畳@祝儀敷

お父さん お母さん 見上げてください
そして拝んでください
あなた方の白痴の子は
ただ一本をもって
遥かに透き抜ける大空へと伸びていきます
限りなく広がる空間に
鉄の身ひとつ 質量を伴いながら
欠けているように細いその首を
まっすぐ無垢に伸ばすのです
垂れたワイヤーのその端で
フックが寄る辺なしに揺れるなか
望むがままに伸び続けるのです
その行動に思惟はありません
あの子は全くの白痴なんです
親である人間たちが電力を与えてあげないと
動くこともできない子なんです
まことに図体ばかりが大きくて
ひとりでペンキも塗れないかわいそうな子なんです
それがただ一本 たったひとりで空に伸びていきます
どんどんと思惑うことなく伸び続けていきます
父兄の皆さま お願いです! 見上げてください!
舌が喉にかかって嘔吐しそうになっても
雲一つないあの青天へ
刺し入っていくあの子を どうか!

空は見えない血を噴き出しました
あの子は何も考えていません
ただの鉄の塊には考える脳などあるわけないのです
だけど ああ実に尊い
見上げてください 日光に鋼管は燃えあがり
大いなる天上を切り裂いている
お父さん お母さん あの子は神になりました
ただ思うがままに伸びていって
私たち人間の頭上で鎮座しています
見上げてください
そして拝んでください
あなた方の白痴の子は
空を殺して 神になりました


貧乳が添えられている

  渡辺八畳@祝儀敷

あんなにかなしく寝たあとに
薄暗がった気持ちで瞼をあけると
あばら浮く貧乳の女がベッド脇に添えられていて
触りもせずに 泣きたくなった

あまりに幼い見た目だが
幼形成熟 これで成人なのだ
もう育つことはない
姿はまんま子供でしかないのに
恥ずかしさだけは大人になって
口を固く閉めながら僕のために添えられている
直立不動で
少ししかない陰毛がなびくことなく生え下がっている

しゃぶりつきたい 水が流れるよう
無限への真理を秘めている乳房から
白銀の孤を描く腰を巡って
かわいらしく膨らんだ臀部まで
そうしてこの女に声をあげさせたい
僕によって嬌声をあげさせたい
だけど届かない
僕は首だけでころりとベッドにころがっている
そして君には胸が無い
いや小さくてもあるにはある、そうあるんだ
だけど殆どの人にとってそれは無いに等しく
そして僕には手も無く足も無く性器もなにも無く
有るのは弱弱しくふるえる眼ぐらいだ
欠け者同士がひとつ部屋の中
視姦されていると思っているのだろう
女の顔はみるみる赤くなっていくが
それは視線を送る僕の気持ちが
こんなにぐちゃぐちゃなのを知らないからだ
襲ってくださいと言わされているかのように
なにも纏わない女を
押し倒して 吸って貪って
好きなようにして
孕ませる
そんなこともできないまま
窓も無いこの部屋の空気は淀むばかりだ
目の前の貧乳は遥かすぎるほど遠くにあって
女の子宮はいつまでも空なまま
母となりお乳が張れば
部屋の外へと出られるのだろうに
この僕への供物である限り
それは叶わぬまま
ベッド脇へ添えられる呪縛が
永遠に続く

一本だけの蛍光灯が青白い光を発して
貧乳のアンダーにとても僅かな影をつくる
それがあまりに美しくて かなしさがぶりかえしてくる
女は羞恥のあまり失禁してしまった
アンモニア臭が窮屈なこの部屋に充ちる
星の宿る瞳が 涙を噛み殺している
隅に埃が溜まる部屋で
ピンクの乳首だけがまぶしい
あまりにもかなしくて
また眠ることもできずに
僕は貧乳を見つめるしかない


やわらかいおり

  渡辺八畳@祝儀敷

あまりの寂しさに
体からスライムを出せるようになった僕は
だれも覗かない自室の中で強張ると
無色透明な粘液に包まれる

まだらに入った気泡になんだかやすらぐ
必然性を含有していないからだろう
生物がいたことのないアクアリウム
地球みたいにぷるぷるゆれている

味も臭いも経験値もないから責めてこない
一切の記憶がこのスライムにはない
ひんやりだけをこころに据えて
欺瞞だとしても浮いていよう

寂しさの代償によって
僕は守られていく
ねとねとしているけれど
くっつきはしない


姉妹たちに

  渡辺八畳@祝儀敷

たまに遠くまで見渡せることがある
しかし見えるものが何なのかはわからない
高台に立っても足元が霧に濡れる
手元にある光はあまりに少ない

樹は古い身も保って伸びていき
樹は身が欠けても残された箇所が保っていく
はじめがあって
姉妹たちがうまれて
減って 減って
水を求めて(水がもたらす潤いを慈しんで)
焼かれて
姉妹たちで寄り添い合って
増えて 減って 減って 減って
遥か眺めて
崩れて(その中を歩き続けて)
姉妹たちを想って


赤は禍いの印だ(姉妹たちも同じ色を携えていることは知らない)
もう何も失いたくないから
それだけを目的に生きていく
(姉妹たちがいる)
(姉妹たちを見つめる)
(姉妹たちを思い返す)
(姉妹たちに抱く)
(姉妹たちが    )
(姉妹たちを   )
(姉妹たちが      )
(姉妹たちを
(姉妹たちに
(姉妹たちに
(姉妹たちに






私たちは、姉妹だ






……………………………………キニ ワカバガ ハエタヨ


雪 2019

  渡辺八畳@祝儀敷

マルボロ吸って白中の寺
眺めれば南無妙法蓮華経
蓮も杓子も雪に埋もれる
この世が全くの闇ならば
濡れ積もる御堂はさぞ映えるだろうけど
きょうは杉山も空も
そしてそれらの前で久遠にのびている道路も
すべてが輝反射しているので
御霊は消えていく
冷気だけが硬く立ち
灰もお経も沈殿している

されど手元がほのかあつくなりはじめたころ
斎場の壁の黒さに目がいく
今日は友引だ
四年前に曾祖母のなきがらを轟々燃やした炉も
まばら生える杉山の中で黙し踞る
この寒さの中でも木々は呼吸している
煙は見えないまま
マルボロも尽き果てた
明日も雪は残っているだろうから
明日も寺は白く眩しいだろう


進学や就職

  渡辺八畳@祝儀敷

愛郷心が無いわけじゃないけれど
でもどうなんだろう
考える暇も無いままに僕らは出ていく

二度とペンキが塗り替えられることの無い駅前は
剥げて掠れて読めない定休日がずっと並んでいる
読めないから定休日なのかもわからない
わからなかろうが、どうせ入る人はいない
知性と繁栄を昭和に置き忘れてきた
口が半開きな痴呆老人がひとり
蟻よりも遅く歩いている
静止画のような風景で横断歩道の信号が点滅する

地方には何も無い
地方にも昔は有った
県庁所在地でない市でも
白黒写真を見れば羨ましき活気が感じられ息苦しくなる
地方には何も無い
地方にもまだ何か有るのかもしれないが
僕らはもうそれを感じ取ることができない
鈍った触覚を集って揺らす
誰も声を出すことは無い
僕らたとえそれが張りぼてだろうが
目に見える「有る」に集まる蛾の本能
でなければ僕らに繁栄をください
人間は社会的動物です
せめて僕らに社会をください
本能のまま空虚に揺らすやせ細った触覚

生殺しにされる前に
僕らは地方を出ていく
僕らが出ていくことが
地方を惨く撲殺する
反逆者を祟る神は今じゃもう死にぞこない
僕らは強い意志も何も無いまま地方を出ていく

文学極道

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