どうして思春期なんかあって
恋なんか知って
性なんか知っていくんだろう
ーーー小野塚カホリ『NICO SAYS』
逢魔が時を過ぎてなお
すぐ下の階の部屋で
顔のない占術師は
香を焚き続けている
数日前に拾った黒猫は
それにつられてまた
目を覚まさないでいる
自分は、といえば
あまり意味を望めないまま
ノートをヘアピンで纏め
そのままくずかごに放り込む
見慣れた爪の噛み跡
「作業中は音楽聴かないんですか、
(……歌詞があると、気が散るから。)
(でもそれすら口に出せないんだ、
(帰ってきてしまうから、
(幾重にも縫い合わせた
つぎはぎのシェルターの裾が
そこから破けるように
でも他に何をするわけでもなくて
何かできるわけでもなくて
「あたしらどうせ捨てられるんなら
「死んで生まれたほうが
「よかったかもしれないね
と、結局フラッシュバックする別れ際の言葉
(歌い続けてるんでしょうね、
貴女は今も
煙と一緒に無理やりのみこむ、
長らく錆びたままの
ムスタング
の弦、の向こう
、で
潜り込む
背中
触れる
忘れる
掴む
壊す
もう音なんて要らない
混ざる香りと
呆れるほど似た顔と声の所為にして
「呪いに加担させるんですね、そうやって、
皮肉ごと海に沈めるように
柔く口を閉ざす
触れる/触れないは漸近線の如く
分布の如く
似ても似つかぬ身体は縫い上げられることもない
意思のないシーリングファンに
魔法は少しずつ解けてゆく
いっそ泳げと
抗うのも無視して
選出作品
作品 - 20170118_485_9409p
- [佳] シノニム - アルフ・O (2017-01)
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シノニム
アルフ・O