選出作品

作品 - 20161017_626_9188p

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水を抱える(botanique motif)

  村田麻衣子

わたしはわたしをころしたい 
それだけを申したくて今こここの円形の屋外劇場の後ろの方に 立っています 観客のぼやき あなたのことなんて知らないわ とか馬鹿げているなどという 声、それがわたしの輪郭をなぞるように はっきりとした意思へと向かわせます
ああ、こんなかたちをしているんだ 
喉の奥がわかっていることとそうでないこと 嘔吐の後に、トイレの前で涙目になっているおぼろげな景色も そうが流れていく音には懺悔も混じりけのない純粋なものに近くなる頃 運命には向かうべき方向が備えられ あらゆる方向から一つの意思を導きだす 重荷ではその時を迎えられない性があるゆえに 荷物は座席に置いた
 
初演が、もう始まってしまいますので ここで始まる 古代から伝わる悲劇のかなしみは、360度から迫りくる現実との対比で ここには 一滴の雨すら降らない。人々のからだから抽出される 涙さえ、年を重ね 枯渇する真皮の奥やそのなかに存在する言葉や堆積にしかみいだせません 
くたびれた だから、わたしは詩を書くのでしょうか それは紙が汚れることです
コラーゲンの入ったスープをコンビニで買って落として からだのなかで汚物にならずに 
雨の日の駐車場が汚れた
暑い日の空は、体の中を熱くしていたら死んでしまったでしょう だからよかったのかもしれない

冒険のような人生において 真夜中の国境付近は、たたずんでいた子供たちの鼓動より先に響いてくるのがわかってしまう あなたは生きている
 ここに。此処に、夢の手前で立ち往生する 

水が流れました わたしのなかの血液が うなだれたわたしの中で騒々しい 冒険に関しては、恐れをなし吐き気をすら、憶えました
それが 本当のことを申すと 吐きすぎてもう生きながらえないほどです  
わたしはここで、最後を遂げたいと思っておりましたが 口にするのは遅かったようで 誰かが 空き缶を投げてきてそれが顔に当たった 馬鹿らしいというからには馬鹿らしいのだなと 客観的には


わたしは 立往生しているが 崖の下に転落するのはほんの一瞬で きっと時間がかからない 
あなたは 雄を迎えたことなどないと言い ああそうなのと その人を祝挽歌と呼んだ。ちゃんづけで呼ぶと調子がいいのでそうした 生と死その2方向に、その命の糧を。滴の燐光を。分け与えましたあなたが見た世界と私が見た世界 あわせて360度 ばらばらにして180度ずつに隠された光の粒子 それぞれが目の奥で潰されて暗幕が掛かる 美しいものを護るように お互いに 言葉を発せずに触りもせずに 繰り返した
それが 死とのコミュニケーションでした
 祈るための公園すらいらないよと いやいるよと わたしは主張し 潰されなかった 虹彩は大変平坦な 破裂を起こしましたが 水の流れとともに穏やかな平日が描かれていました わたしから水が流れ出すということが滑稽で 戯れている噴水の水が流れ出すという想像で瞼を閉じました 

膝を折りました ええ抱える間も無くそうして人々のまえに新しい存在として膝をついて 迎えます 産んだことのない子供を抱きました あやすのがおせっかいにも 好きでした  わたしを呼びましたか そうすると
こころのなかが荒れ狂い 狂わされたくなどないのに静けさがやってくるのにはやはり時間を費やすしかなく 一瞬の秒針の狂いであればどんなによかったか
求められてから 本当にわたしでしょうかと聞き返す 堆積を終えた砂がしっとりと鎮座する
整列の美しさなど 憶えていますか?いいえ 

往年の堆積が始まる 自然を成してから 与えました あなたたちが、澱ませた世界のなかでね 公害の空気を吸って育ち 間違っては同じように修正液ばかりを使い 削り取ってやったら 汚らしくなる空虚さに はっとして それからあなたの裸を思い出させた どうしてか透き通っている あまたの希望を背にしていてもなお積み重ねられ
地層を偶然にも 鮮やかにしたのでしょう
わたしは 死なない 代わりに詩を書くのをやめてしまったのです
植物の断片を収集し 人間にあまたのことを尋ねましたので 偶然にも発覚したのですが
わたしの考えは傲慢なのです
なぜかというと
あなたに向かいあうときの
やさしさというのは、わたしの唯一の創造物だから