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作品 - 20160912_675_9097p

  • [優]  之繞 - ただならぬおと  (2016-09)

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之繞

  ただならぬおと

曇ったレンズ
それを越えたところに
うっすら視えているもの
展開されゆく街並み
と、
ひとつ、落ちた
いかずち

見慣れた希望が
かすれて見え始めたのは
その光ぐあいの悪化のため、
それとも、私の眼が
悪くなったせい

全て
としか言いようのない
全てを言い尽くせたことを
悟った日の呆気なさを
とてもよく覚えている
それを全て誰にも彼にも
聞き流されてしまった後の
呆気なさも含めて
よく覚えている

コンポから音楽が流れる中で
昼寝をしてしまったら
もう秋で
網戸から吹く
冷房のような風に
揺さぶり起こされた

夢も何もなかったかのように
現実を始めている
ひだひだのカーテン
空気感の青いリビング
そこで先に夕食を摂っていた
懐かしい思い出の背中
今は無い傷椅子

絵を描くようになって
判ったのは
名前や言葉のように
覚えたい形を覚えることが
なかなか難しいこと

落雷で
焼け潰れた木を
仮定してみる
羽織るものは持ってきたろうかと
心配してあげたい人のことを想って
私はその木を
見にゆきたくなる
夜風がただ寒くなるころ
その人といっしょに
なにもない野外に
抛りだされていることの
痛みもない一時の幸せを
仮定してみる

想像することに対する
拭えない恐怖
視るより先に
触ってしまえた心の一個が
いま頭の中でぼろぼろ欠けていく

全てを言い終えた私にはもう
これから、より鮮やかな嘘を
ついていくばかりの使命しか
残っていない
それならば、いっそ、もう、と
どこかへ出向くたび、その帰りに必ず決意した
二十一歳の
あたらしき日々

人より少し
正直すぎた私は
歌を聴いている人が好きで
そのくせ、その隣に無言で居ることは
地獄のように寂しかったのだ
ずっと