その発端は
水に書かれなければならない
その顛末は
水で描かれなければならない
たれにも見ることが叶わない
ただ
ふれることができるだけの
物語だとしても
どこにでもあるような一本のロープが 世界を
わけるように張られ
かつてあった世界と もう なくなった世界を
隔てた
あのとき
絵本が 一冊
ロープの向こうへ流れていったのだ
鉦、太鼓も もう 聞こえないでほしい
わたしはただ
とりかえしのつかない色をした
朝焼けの
朝焼けの
滲む色だけをなつかしむ
近づけない
出来事の 淡々としたあざやかさに
沈黙する地平
幾つもの水たちが
幾つもの陰影に語らせたお話の結末は
水と塩がなごむ世紀まで
綴じている
選出作品
作品 - 20160810_196_9024p
- [佳] 海ができるまでに - 山田太郎 (2016-08)
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海ができるまでに
山田太郎