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作品 - 20160611_422_8882p

  • [佳]  NO ROOM - 紅茶猫  (2016-06)

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NO ROOM

  紅茶猫

誰も居ない部屋で電話が鳴っている
誰も居ない家で電話が鳴っている

テーブルに置かれたオレンジはモノクロで瑞々しい
壁に貼られた薄い紙は
歯を見せて笑う女優を真似た塗り絵か

きっと彼女は笑って死ねる
no room
no problem
何だかお腹を抱えて笑いたくなった

頼まれれば何でもやって
頼まれれば何でも見せて
見せるものが無くなったら
今度は
きれいに整理された箱の中に収まっていく金魚

何だか
何であれ
誰であれ
無くしたものはもう帰らない

no room
no problem

蝿になろう
蝿になれば
忌み嫌われて
どこで生まれ、どこで死んだのか
誰も気には止めない

人間だけが
朽ちる紙に後生大事に生きている時間を刻んでいく

誰も電話に出ない
電話は鳴り続ける
靴音がしない僕がベルの音を聞いている

金魚がのたうつ
血の色をした金魚

生臭い匂いがペタリペタリ部屋を覆っていく

電話のベルがふいに止んだ
僕も立ち止まる

金魚を楽にしてあげたくて
踏み潰そうとした僕の足先に
金魚が赤く透けていた