選出作品

作品 - 20160531_106_8855p

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鳥は鳥、君は君、だから君は絶対に飛べない。

  泥棒




鳥は鳥、


ビルの屋上から飛んで
すぐっ
鳥は改行をはじめる。
交差点には
急ぐ人が
必ずひとりはいるから
この散文的な交差点の信号は
いつも
うすいうすい赤、
すぐっ
家には着かないようにと
立ち止まれと
夕焼けは命令する。
そのために
夕焼けは赤いのだと知る。
街にある比喩なんて
気にしなければいいのに
ひとつひとつ丁寧に拾い集めた後
公園で
すぐっ
鳥にばら撒く時
ぜんぶわかる。
飛べないという事実が
いつも
勇気みたいなものをくれた
想像したら
すぐっ
世界は半分になる。
そして
折りたたまれ
羽根のように折りたたまれ
世界がひとつになる時
ぜんぶわかる。
物語は
いつも僕の目の前で改行されてきた
たとえば花を
よりきれいに見せるために
でも本当は
花なんて咲いてはいなかった
世界に
今まで一度も
花は
咲いたことなんてなかった
誰もわからない物語の中
その中だけで
花は咲いていた
その事実っ
その事実だけが素晴らしい、
右に咲く花
左に咲く花
どこが似ているのか
すぐっ
ぜんぶわかる。
わかったら
すぐっ
ぜんぶ枯れる。
そういう世界に雨が降る時
ぜんぶわかる。
花が咲く理由
絶対って
本当に絶対なのか
絶対ならば
もっとたくさんの花が咲いていいはずなのに
今日も
どこかで
すぐっ
悲しい出来事が流される。
悲しいかどうか
自分では決められない速度
たくさんの誰かが
悲しいと言えば
それは悲しいのか
そうなのか
この世界はそうなのか
そうならば
世界は優しくない
君の物語が終わる時
その時でさえ
なにもわからないまま
すぐっ
改行される。
鳥が飛ぶ時
遠く
それを見上げながら
アスファルトの上を歩き
すぐっ
君は君になる。
世界の折り目を歩く時
ぜんぶ青になる。
わからない
飛べない
青い空に確かにある。
あの空行は
滑走路ではない
だから鳥は
すぐっ
改行をくりかえす
君はまっすぐ歩いて
いつか家に着く
着いたら
すぐっ
詩を書くだろう
誰にも改行させない
まっすぐな詩
君が
君だけが決めることができる。
その一行が
鳥より高く飛ぶ時
ぜんぶわかる。
それは
本当に飛ぶことより素晴らしい
もう
すぐっ
君の家は近い





君は君、


僕は、詩とか書いている人が嫌いです。
春の終わりに吹く風はあまりに強すぎ
て、すべて吹き飛ばすから、夜空がい
つもより暗くなると、みんなそう言う
けれど、僕は詩とか書いている人のせ
いだと思っています。朝がきて、孤独
にもそれぞれ個性が必要だと、太陽は
みんなを照らすけれど僕は詩とか書い
ている人が、憂鬱という漢字を都合の
いいように使っていると思っています。
僕は、詩とか書いている人が嫌いです。
書いてない人はもっと嫌いです。命の
大切さとか詩で教わりたくはない。僕
はもう知っています。いつか死ぬこと。
憂鬱という漢字を知らなかった頃から
憂鬱はどんなに強い風が吹いても誰の
中にもあったから、いつか僕のせいで
詩を書いていない人が詩を嫌いになる
くらい読んでくれたら僕はもうみんな
好きになれます。孤独を語って共感な
んてされたら終わりだ。僕の孤独はい
つだって新しい。最新。僕の孤独と君
の孤独は違うから離れていれば同じに
みえます。僕は詩が好きです。詩とか
書いて好きな人や空を飛んでいる鳥に
ずっと嫌われていたい。




だから君は絶対に飛べない。


ひとつの惑星を潰せるくらいに汚れたい。お前は何に影響を受けたのかと、そう聞かれたら、迷わずに君だと答える。草や花は文字にされたいわけではない。写真もいらない。風よ、黙れ。君以外の誰かなんてビニール袋みたいに飛んで消えろ。個性よ、死ね。羽根よ、ちぎれろ。言葉よ、集まるな、散れ。誰も愛をうたうな。すべての正解を否定したい。感謝されるよりお前の詩なんか役にならないと言われたいよ。そういう詩を書きたい。読みたい。静かな朝に君に会いたい。生きている間に君に会いたい。君に読まれたい。世界の半分は嘘がいいね。残りの半分を肯定できる。君の孤独が誰よりも深くありますようにと僕は願う。今日も君は孤独だ。鳥が上空から君の家を探しているよ。見つかるわけがない。君も僕も絶対に飛べない。世界の半分も飛べやしないんだ。