今朝も風なんてまるで
恒常的平和であって
くりかえさないが
くりかえし
くりかえさないがくりかえし
ああ
くりかえしか
風はニッケルでしょう
わたしが高校で学んだものは
ラジオ体操くらいなもので
だいたい嫌なやつらといると
情報はぜんぶ嫌になるものだろう
一番辛かった病症
一番辛かった病症なんて
高校生活としか言えないだろうと
寝室を抜け縁側で
今夜最後のラッキーストライクを嗜めば
思い出す
鹿の角のようにうつくしい女性の肌を
どこで撫でたんだろうか
思い出せないってことを思い出した
高校生活はただの幻覚だったんだろ
路傍で生まれたわけでなく
移動中の車中で生まれたわけでなく
しかしいつからか
路傍に好かれ
草にさえ
愛され愛した
ジーザス
ご存知のとおりに
みえるのはハイ・クラスの街
気になった
税金のとりたて
路傍に郵便受けはないから
朝の四時
太極拳の連中が
朝の四時からジョガーどもが
わたしを起こす
教会の炊き出しに早く
ポケット・バイブルを読むにまだ暗く
嗚呼
ヤハウェ
わたしが
眼をいたわっているのはなんのため
過去の狼藉を
しっかりみつめる勇気もない
こころ貧しいわたくしが
未来を見てもいいのか
だから自然
この眼をいたわっているのか
花の匂い
路傍の両側花が植えてあって
それは
とても小さい女のひとと
かつて
というか今も
いっしょに
ふさわしさ以上の
暮らしをしている
アパートの一室まで
つづいてる
わたしは今日
そのひとに言えるだろうか
もうすべて
終わっていたんだよって
ほら
バイブルは雨でぐちゃぐちゃ
眼を細くすれば
少しずつ
この運動公園の
向こうの丘の上の
ハイ・クラスの街の灯りが
ともりはじめていったでしょう
こころと
体がうまくあわず
資料用CDの
ゼップのアルバムを開けば
エイフェックス・ツインのCDが入っている
この夏はいつかの夏で
眼はまだ春をひきずっていたけれど
いつかの夏に
私はもっと老いていた
乱雑としたそのアパートの一室
笑う エルモのぬいぐるみの
眼球は
煙草のヤニできいろくなっていき
あなたはだんだんつかれていったが
私は死んでいっていたのでわからなかった
大体! 今もなんでもわかりにくい!
朝に音楽は聞かなかった
昼はドアーズを低くならし
夜はサティを大きな音でならし
その家具の音楽が
ついに寝室を支配し出すと
あなたはコロンと寝てしまった
私は眠らず
ずっとベランダで
電車の渡る橋を
──そのときには時代の亡霊が歩いていたくらいで
橋を見たり
絵本を読んだりしてじっさい何も考えず
考えられず
夏へ身を入れてしまった
ノートに書きつけた
信念のことばも
今
まるっきり生気なく
昨晩喫った煙草の苦みが
今朝も口へとのこるように
まったく不甲斐なく感じ
ベッドに足を放り投げ
その足へ
この季節らしい蝶がとまれば
おもしろい
今朝も風
明日もまた
開かないあたらしいドア
開けないあたらしいドアはむしろ
この携帯電話の
電源を落としてしまおう
低体温な感情で
低体温の畦道へ出て
ふりそそぐ
それは
ちりぢりに夏を孕んだ
まだ、春の日
いつかの約束は
約束だから信頼に足らなくて
私は文字を筆で書かなくなって
不安の通奏低音をそのまま進む
アコースティック・ギターが上達しても
己のきもちを
しかと表することができない
大事なことが
音にはならない
ましてや言葉にならない
体の冷えはあたらしいはじまり
呼んでいる
体の冷えは
着く
あたらしいはじまりへ
歩く
ミネラル・ウォーターの
とうめいさにとどめ
体から抜けていく
もの、と
花は
今、へ落ちる
Bye.thanxs.bungoku!
選出作品
作品 - 20160502_388_8787p
- [佳] Radiances - 田中恭平 (2016-05)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
Radiances
田中恭平