百円ライター・
アグニの神を懐に
十四枚の舌で
十四本の煙草を喫った日
火は冷えびえ
白い四角形の隅の所定に私
デカルトじみた硬い眼が
あなたは機械であるという
背骨は
痛みつつ黙す
吠える者は弱いものだけ
私は弱いが
猛々しくもダンボール箱を壊しつづけ
つづけるに奥歯へ身を委ね
定刻まで身を崩さず運べ
AからBへ
BからA’へ
妙味のない水はながされた
米粒が
米粒を勘定していた
そこに米粒は自分を入れた
てのひらが
米粒でいっぱいになった
午後の天気はライス・シャワーになるでしょう
落ちるまでそれは花であって
落ちたら塵であった
火と水と
それから米粒と
血管へカリフォルニアの風が吹く
それは人が言っていた
カリフォルニアには風が吹くんだよ
私は頷いたけれど
わからないまま運びつづけた
A’からB’へ
B’からA’’へ
妙味のない水はながされた
六本百円の棒パンをすべて頂き
嬉しくなるのは舌先だけ
富士の山を見ていた
直線の光は眼で少し歪んだ
アグニの神をカチカチ鳴らす
傍で真剣なはなしがされて
私はシャッターを切ったが
真剣なはなしが感光しない
リーは行かなければならない
私はリーを知らない
ボロボロのジーンズで
枯木の林を真っ直ぐに
リーは富士の山へ向かう
私はリーを知らなかった
リーはガソリンをかぶって燃えたと
会議室のテレビが伝えた
祝祭 がはじまった
リーがアグニの神より天へおくられ
だから妙味ある水がたらふく獲れた
ライス・シャワーがふって
ふりつづいて
私はさいわいであったが
おかしかったのは風のこと
しかし望まれた風でしょう
私はB’’からA’’’へ
花は塵になった
仕事が終わった
アンフェタミンを夕日が誘っていたから
鐘の音を知る前に
私はわかっていた
揺りカゴの車で東名高速を運ばれていった
見えた多くは機械であった
私はグッタリして
シートに身を委ねようと
アグニの神がポケットから落ちてしまった
選出作品
作品 - 20160116_233_8568p
- [優] #09 - 田中恭平 (2016-01)
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#09
田中恭平