松林の間の小道
まん中に緑の下草が列になっているのは
日に何度かは車が通るから
道の脇にはネコジャラシやらヨモギやら
雑多なものたちが生い茂り
乾いた幹の間から収穫の終わった畑と
畑の向こうにある住宅地が見える
友達の家からのいつもの帰り道
ショウリョウバッタを脅かして
僕が歩くのは砂と石ころと茶色い松葉の轍
なだらかに登る小道は住宅地のアスファルトに
さりげなく連結している
僕には入口であり出口なのだが
住宅地から振り返ると
黒々と盛られた松林にカラスが一羽二羽と降りてゆく
やがて松林も畑も水色の空へ吸い込まれ、住宅とアスファルトが、水が染みるように境界を伸ばしていった。
トンビは行楽地で弁当を狩ることにしたらしい。
カラスは輪を描くトンビの真似をやめ、夜の電線にぎっしり並んでとまり、コンビニの看板灯に油っぽい羽をぎらつかせている。
僕が住んでいた住宅地では子供の声を耳にすることが稀になり、時折、どこかの家で呼んだ救急車のサイレンや窓から射し込む赤色灯に慣れてきた。
市街地では電柱が抜かれ、電線は地中に埋め込まれ始めている。美観や利便性のためでありカラスへの嫌がらせではない、と思うがあるいは。
僕は何処かに居り、選ばされ、選びとる。選択肢は無限ではなく正解もない。俯瞰する目で時を手繰れば、僕らは水が流れるように、いつのまにやら何処かしらへと移ろってゆく。
久し振りに帰省した僕のために母の焼いたマーブルケーキは、見た目いびつでぎっしりとしてナイフで切ってみないと断面の模様はわからないから、僕は思い出したように海を見にゆく。
住宅地から数キロ離れたカフェオレ色の海は、今日も白く波立っているか。
拡がり続ける住宅地をあとに
畑とまばらな家屋を見ながら進み
車も人通りもない舗装された道路を渡る
笹藪にジョロウグモたちが糸をかけまくり
ぞっとしながら僕はくぐる
飛砂を防ぐために植えられた貧弱な松の
薄暗い林を早足で抜ける
やがて、海風が積み上げた砂丘に出くわすが
スニーカーに砂が入り込むのを我慢して
大股で登って越えるまで
まだ海は見えない
※10月に投稿したものを改稿しました。
選出作品
作品 - 20151214_652_8500p
- [佳] 移りゆくものたち - 鮎 (2015-12)
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移りゆくものたち
鮎