選出作品

作品 - 20150701_024_8164p

  • [優]   - zero  (2015-07)

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  zero


生命の芽吹きは死と同義
草木が芽吹いているのではなく
死が咲き乱れている
春に漂う死の破片は極めて正気で狂気のかけらもない
この緻密に計算された春の死に私の感情も巻き込まれる
新しい職場や新しい仕事や人間関係
全てが更新され死んでいく中
私の影も死で満たされる

この熱病のような陽気の中
私は固くスーツを着込み襟をそばだたせる
この自然の宴会はあまりにも危険で
隠れた殺戮が陰湿に乱舞している
その殺戮の粒子が刺してくるので
防毒マスクをかけた私はひとり温かさに堪えている

春は傾きながらも均衡を目指している
死や殺戮もまた一つの大いなる均衡で充実する
更には夏や秋や冬へと接続していく道筋を得るため
均衡は欠かせない
乱雑で混沌とした力学からぽっかりと浮かび上がってくる均衡を
春は季節の接続のために求めている

私は春の用意した均衡に乗ろうと思わない
そのような延命はもはや私には不要だし
夏に接続する命も要らない
私自身の刹那的な均衡がいくつも連鎖していけばいい
私は春から身を守りながら
小さな均衡を積み重ね星座を作る
私だけの春の星座を