私の彼は
中原中也になりたくて
でも
なれなくて
夕暮れに
カップ焼きそば食べている
内定をもらえた
中の上の中の会社から
電話があって
内定取り消しになって
泣きながら
カップ焼きそば大盛り食べている
私が
コンビニへ行って
期間限定の
プレミアム瓶ビールを買ってきて
(これのんで元気だしなよ
って、
そう言ったら
ひと口だけのんで
ビールを丸いテーブルに
コンっと置いて
ズボンとパンツを
さっと脱いで
彼は
すこしだけ笑った
狭いお風呂に
一緒に入りながら
小さな鏡に映る
彼の
大きくなっている
おちんちん
そっと触りながら
(こんな日も勃起するんだね
って、
私は
良かれと思って
そう言ってみたのに
彼は
暗い顔をして
お風呂を出て行き
無言で服を
さっと着て
そのまま二度と帰って来なかった
言葉は
私の言葉は
こうやって
人を傷つけてしまう
あれから
もうすぐ一年が経ちます
私の彼は
中原中也になりたくて
でも
なれなくて
今は
串原串也って芸名で
全国をまわっています
小さなライブハウスで
朗読コントをしたり
詩人あるあるネタとかをやっています
そして
詩を書いている人達からは
失笑されています
私の彼は言っていました
もっと
詩をよんでもらいたいって
漫画や小説のように
普通によんでもらいたいって
つき会っていた頃
本当に
よく言っていました
その頃の私には
詩は
すごく
ものすごく
超ものすごく
特別なものだったから
普通によんでもらいたいって意味が
その感覚が
あまりわからなかったけれど
今は
すこしわかるのです
あれは
いつの日だったか
風が
急に強い風が
音を立て
何よりも先に
街を
丁寧に描写しながら
吹き抜けて
もう
誰も何も書くことが
できないねって
二人で
ただ
焼きつけるしかないねって
思いながら
近所の小川まで歩いた
春の日
トタンがセンベイ食べて
春の日の夕暮は穏かです
アンダースローされた灰が蒼ざめて
春の日の夕暮は静かです
(中原中也/春の日の夕暮)
今でも
月に一回くらいメールがきますが
ごくたまに
そのメールが
偶然かもしれないけれど
抒情的な
やけに抒情的な
一行詩になっている時があります
そんな時
私は
あの日に
彼が食べていたのと同じ
カップ焼きそば大盛りを
スーパーで買ってきて
ひとりで食べます
あの日
勃起していた彼に
何も言わず
お風呂で
セックスしていたら
いつものように
セックスしていたら
今年の春も
二人でお花見したり
電車に乗って
ツツジを見に行ったり
していたのかな
夕暮れ
ブックオフで
100円で売っている
知らない人の詩集を
パラパラめくり
なんとなく
よんでしまう
春の日の
夕暮れ
(串原串也/詩人あるある)
今だって
私にとって
彼は
串原串也などではなく
中原中也なのです
顔は
西郷隆盛みたいだったけれど
まったく
中性的ではなかったけれど
それでも
中原中也なのです
デートの時だって
いつも
ユニクロの服だったけれど
それでも
絶対
中原中也だったのです
春の日の夕暮れは
いつだって
急に強い風が吹いたり
人の気配がして
切ない
(こんな日もシャンプーするんだね
って、
私は私につぶやく
こんな日は
お風呂場の小さな鏡が
まるで深い意味があるかのように
抒情的に
やけに抒情的に
くもってゆきます
私は何になりたいのかな
選出作品
作品 - 20150602_424_8106p
- [優] 中原中也になりたくて - 泥棒 (2015-06)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
中原中也になりたくて
泥棒