第一幕 (森の妖精たち)
矢継早に、四方より登場
わたしは、碧――
贅沢に華を散らして
眩しい朝の陽を浴びた葉桜のように
濃淡の影も爽やかなみどり
わたしは、黄色――
麗らかな山麓に菜の花が咲き
キャラメルを一欠けら頬張った子らの
愛らしい笑みも声もきいろ
わたしは、紅――
背いた罪の数ほど美しく
威風堂々と山里を染める紅枝垂
裂けた葉の無数のあか
わたしは、蒼――
あてどなく彷徨うごろつきの
転がる石も雪融けの水に呑まれ
沈み流れて仰いだ空のあお
暗転
第二幕 (湖畔に立つ女のシルエット)
重いピアノの伴奏がつづく
わたしは、透明――
硬く、そしてつめたく
淡海まで凍りついた冬の終わりに
囀る鳥の声を聞いた、とうめい
雷、雷、そして暫くの沈黙
でも、きっと――
彼は雷鳴のように轟く声で
わたしにつよく何かを叫ぶと
疾風ように丘を駆け降りてきた
でも、きっと――
彼は迷宮のように行き先を隠した
朽ち葉のつづく深い森の道を抜けて、
漸く夜の終わりに熱いキッスを届けたの
(ピアノの伴奏が止る)
七色の光を浴びた女と、
その背後に立つ四人の妖精。
静やかに弦楽合奏からはじまり、
管楽器も加えた穏かな牧歌が流れる
ええ、乳白色の朝靄のなかで
彼は陽光を背にして凛々しく立っていたわ
――だから今わたしは、
あなたが望む何色にだって染まるの
女を囲み、踊りだす四人の妖精
そして静かに緞帳が降りてゆく
――エピローグ (囁くような声で)
でも、わたし 本当は
とても気紛れな虹色なの・・・・
選出作品
作品 - 20150406_225_7999p
- [佳] 春めく色たち - atsuchan69 (2015-04)
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春めく色たち
atsuchan69