メロスは激怒した。
必ず、かの厚顔無恥の王を
除かなければならぬと決意した。
メロスには現代詩がわからぬ。
メロスは、腐れポエマーである。
ホラを吹き、ポエムを書いて暮して来た。
けれども自意識に対しては、
人一倍に敏感であった。
と、ここまで書いて、
ヌンチャクは思った。
一人の作者だけから全文引用して、
自分の作品とするのは、
たしかアウトだったかな。
そうだそうだ。
引用なんてくだらない。
所詮は借り物の衣装に過ぎない。
太宰マントは脱ぎ捨てろ!
おまえは誰の言葉でもなく、
自らの言葉で、
語らねばならぬ、
おまえの愛を。
おまえの詩を。
夕陽が沈む前に。
走れ、僕のメロス。
ポエろ、僕のメロス。
ぼくは新しい倫理を樹立するのだ。
美と叡智とを規準にした新しい倫理を創るのだ。
美しいもの、怜悧なるものは、すべて正しい。
醜と愚鈍とは死刑である。
『もの思う葦/太宰治』
あ、また引用しちゃった。
アウト?
セーフ?
よよいのよいっ!
おまえたちは、わしの心に勝ったのだ。
虚飾を脱ぎ捨てた、
この裸身のような心で、
わしも仲間に入れてくれぬか。
王様!
改心するの早いって!
まだセリヌンティウスも呼んでないのに!
王宮に、
メロスの竹馬の友、
セリヌンティウスが呼び出された。
久しぶりの再会であった。
メロスを見るなり彼は言った。
王様、裸じゃね?
セリヌンティウスはすぐさま刑吏に捕らえられ、
処刑台にくくりつけられた。
ざわめく聴衆に、
彼は必死に訴え続けた。
ボロは着てても心は錦!
一糸纏わぬ裸は裸!
引用してもいいんよう!
ぎんぎんぎらぎら 夕日が沈む
ぎんぎんぎらぎら 日が沈む
『夕日/作詞: 葛原しげる』
アウト?
セーフ?
よよいのよいっ!
夜酔いの宵っ!
看守長!
さきほどから部屋の隅で、
何やらブツブツとあの囚人が、
様子がおかしいのでありますが、
大丈夫でありましょうか?
放っておけ。
あんなキチガイナイスガイ、
裁判を待つまでもなく、
じきに国外追放だ。
公序良俗に反した罪で、
牢に入れられている全裸のメロスに、
緋のマントをかける少女はいない。
ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ、
ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ、
『斜陽/太宰治』
金比羅船々追風に帆かけてシュラシュシュシュ
『民謡』
シュリケン、シュリケン
シュシュシュシュシュ!
『さっくん忍者参上!/ヌンチャク』
ポエム、私を殴れ。
音高く、私の頬を殴れ。
私は一度だけ、君を疑った。
いや、二度。
嘘、三度。
土台こんなものは詩でないと、
誰に裁く権利があるものか。
とりあえず私を殴れ、
私も殴る、
そうでなければ私には、
君と抱擁する資格さえないのだ。
微笑むポエム、ポポエム。
ヌンチャクは、ひどく赤面した。
選出作品
作品 - 20150406_222_7998p
- [優] ポエム、私を殴れ。 - ヌンチャク (2015-04)
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ポエム、私を殴れ。
ヌンチャク