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作品 - 20150330_039_7983p

  • [佳]  葬送 - 相沢才永  (2015-03)

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葬送

  相沢才永



そこでは激しい血の轟きが聞こえる。
とあるひとりの少女が流した血の轟きが。
人々は耳を塞ぎ、目を塞ぎ、声ばかりを張り上げている。
聞き取れない言葉をけたたましく張り上げている。
血流は塞き止められず、彼らの足を次々と掬い上げ、
その冷ややかな誇りを飲み込んでいく。

少し離れたここでは喉を胃酸に焼かれた青年が、
足元にある、輪郭を失った感情を見つめている。
いつか腹の底に沈めたそいつがアスファルトの上で、
わざとらしく干乾びていく様子を見つめている。
“君が死んだのは僕のせいじゃない。
見てはいけないものを見るような、奴らが悪いんだ。
わかろうとしない奴らが悪いんだ。
知るのを恐れて、同じだと決め付けたのは奴らじゃないか。
どうしてそんな顔しているんだよ。”

青年にも微かに聞こえる。
血の轟きが。少女の咽び泣く声が。
たった今血だらけの理由など考えもせず、心の平穏を傷つける音が。
聞こえながら、ズボンを下ろし、自分の熱(いき)る器官を握りしめていた。
嘔吐した輪郭のない感情を片手に纏わり付かせ、頻りに動かした。
直に血流は彼のいる下流まで辿り着く。
分別を失くした少女の激情が、このまごついた性(さが)を飲み干してくれるのだ。
青年は悦びに身を捩り、間もなく果てた。
鼻の奥を刺激臭と鼻水と、不気味な甘みで満たしながら。
アスファルトに目を遣ると、ねっとりとした白い命が、感情の亡骸に埋まっていた。
すやすやと、眠るように埋まっていた。

「どうしてそんな顔しているんだよ。」

輪郭を取り戻そうと掘り返した記憶の中で、ひとりの男が青年に聞いている。
青年は答えず、質問を質問で返しながら、想いが生きようとする音を聞いている。
絶えず、聞こえてくる。
胃酸に焼かれた喉から張り上げる、ガマ蛙のような声が聞こえてくる。
聞こえながら、白々しく、聞こえない振りをしている。