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作品 - 20141027_438_7717p

  • [優]  誕生 - zero  (2014-10)

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誕生

  zero

           ――K.F.へ

理由も目的もなく、理由や目的を作るためにあなたは生まれた。あなたはこれから生きるという不思議なめまいの中に巻き込まれていくが、全ては既に古く、同時にまったく新しい。あなたの顔も手も足も、いつでも何かを更新していくから、あなたの後ろには古さが、あなたの前には新しさが、海と空のように広がっていく。あなたはあなた自身によってあなたの中にあなたを登録する。

世界にこれだけ無数の空席があるというのに、あなたはどの席にも座らない。あなたに席は要らない、ただ驚きがすべての席を埋める。世界にこれだけの空き部屋があるというのに、あなたはどの部屋にも住まない。あなたに部屋は要らない、ただ恐怖がすべての部屋を埋める。あなたによる存在の更新に、世界の神経は驚き恐怖し、世界の隅々まで身構える命令を送ってしまった。そしてすぐさま世界は優しくなった、あなたの小さな姿を認めたから。

小さなあなたが手を開いては閉じる。そこに儚く消え去る真っ赤な炎が見える。小さなあなたが泣き声をあげる。そこにずっと続いていく言葉の連鎖の波が見える。小さなあなたが顔を動かす。そこにいつかは表情となり花となるわずかにほころびた蕾が見える。未来は幾筋もあなたから流れ出している。沢山に枝分かれした未来のどの枝を伸ばしていくのか、それは偶然でも必然でもなく、お父さんとお母さんとあなたと世界とが一つの壜の中に混じり合って決めていくのだ。

あなたの誕生は僕たちの感動の束で出来上がっている。あなたの誕生の前にはお父さんとお母さんが出会うなど沢山の出来事があり、あなたの誕生は歴史の一つの事件であり突端である。だがその誕生は僕たちの感動、僕たちの喜び、僕たちの奇跡である。あなたは僕たちの全ての感動で組織されながら、これから少しずつあなた自身の感動であなたを組み替えていくのだ。生きることは美しいめまいであるが、めまいのたびごとにあなたはあなた自身を新しく作り変えるのだ。