1
憧れを追い駆ける時の虚しさ
その中でしか見つけられない理由(わけ)を求めていること
いつからか
僕の片手には孔が開いていた
その寒さの中で屈まっている君よ
なんて空疎で大きな足跡だろう
君はあの大きな木の幹に凭(もた)れ
どう足掻こうとも竦んでしまう脚を優しく叱るのだ
それは微かな震えだった
孔の中から聴こえる陰たちの叫喚
もうすでにここから果てしなく遠くへと離れているのに
その音はいつまでも 鳴り止む気配がない
しかし戸惑い足を止めてはいけない
小鳥たちの囀りに耳を傾け
その音を陰たちの叫喚に分解させれば
君は確かな幻を感じるだろう
2
漆黒な孔にはいつの日かの俤(おもかげ)が揺れている
君はそれを静かに見つめているけれど
ほんとうは恐くて目を逸らせられないんだ
君だけではないとは言えない君だけの俤
今は孔の無い方の片手を見つめてごらんとは言わない
もし見つめたとしても陰たちの囁きに怯えるだけだから
心の煩いが溶けて無くなるまで
片手に開いた小さな孔の様子を味わっておくのだ
味わっていると思想を俤に見抜かれ
動悸が若干激しくなった君は
凭れていた大きな木の幹を触り
混沌としている胸の内を撫で下ろした
大きな木の根に君は坐ると小声で呟いた
いつもみたいに生きています
君はそっと片手の小さな孔を撫でると
心の奥から大きな溜息を吐き救われたような表情を湛えて眠った
3
目が覚めると空に夕焼けが滲んでいた
君は服についている蟻を払い除けて立ち上がり
孔の開いた日から着々と前に進んでいる自分を確かに感じながら
大きな木から離れ草原を歩き家へ帰る
家に着いてからも片手の小さな孔の事を考える
まるで窓のようだと思った
こちらからは漆黒の孔として見えるが
その奥からは陰たちが君を見ているのだ
君は布団に身体を横たえた
その時に胸のあたりで何かが引き千切れる音がした
君は驚き 胸に手をあてる
すると片手の孔から何かの破片が出てきた
破片が出ると孔は塞がれていた
とても硬い石のような破片だった
君はそれを手の平に乗せると
迷いもなく口の中に入れ飲み込んだ
選出作品
作品 - 20141018_365_7707p
- [佳] 孔 - Kriya (2014-10)
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孔
Kriya