選出作品

作品 - 20141013_307_7699p

  • [佳]   - zero  (2014-10)

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  zero

夢の中で男と二人連れで歩いていた。河原に降りていくと一面のススキで、その間の小道をさらに河沿いまで下っていった。辺りはもう夕方に近く、光の濃度が高まっていた。「見なさい。」男は言った。「あなたの河原には石が一つもない。」言われてみるとその河原には砂しかなかった。「これはあなたが人を信じないからです。人を信じることに長く耐えていくことで、河は一つずつ長い流れに乗せて石を運んでいくのです。」確かに私は夢の中で人を信じることのできない若くて荒んだ人間だった。「人を信じることで、あなたのまわりにはいくつも重い石が置かれていく。もちろん裏切られることもあるでしょう。ですが、一度人と信じ合ったとき、そこではあなたが、自分の孤独を投げ捨て、傷つくことも恐れずに投げ捨て、閉じた心の重みを人生に分け与えた証明が、重い石として残るのです。」確かに私の河には重みをもったものが何一つもないようだ。私は心を閉ざすことで、傷つくまいとすることで、何一つ人生に重みをもたらすことができなかった。そして、河の石とは信じた相手の存在の重みでもあるだろう。私は自らの孤独の重みを投げ捨て、相手の存在の重みを受け取る、そういう信じ合いを積み重ねることがなかったため、私の河にはその証明としての石が一つもないのだった。「石に取り囲まれた、とりどりの重さで彩られた河が出来上がるとき、あなたは今よりもずっと重い涙を流すでしょう。そして今よりもずっと河の流れは急になり、いくつにも分かれていくでしょう。」私は思った。そうはいっても私が人を信じられないのは一つの堰があるようなもので、河の流れを途中でせき止めているものがあるせいだ。そもそもこの河は誰の河だったのだろう。私にはそもそも河を流すことすらできていないはずだ。ではいったい、この河は誰の河なのだろう。男は私の心を察するように言った。「あなたの河はちゃんと流れている。あなたの堰なんて本当はとっくに乗り越えてしまっているのです。あなたはそれに気づいていない。だから夢の中でしかこの河を見ることができないんです。」