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作品 - 20140731_424_7573p

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水色のお弁当箱

  はなび



 砂時計がさらさらさらさら流れているゆるやかな曲面を呈する硝子の容器の中に立ち マリのひとびとがするようにわたしも魚模様のおおきな布を折りたたんであたまに巻いたのだけれど足元がどんどんしぼんでいった
 そうしてわたしもつま先のほうからどんどん細くなってするりとしぼんでゆく先に吸い込まれていった

 わたしは折りたたんだ魚模様の布のことをかんがえていた 折角きれいに折りたたんだものがこんな風にしぼんでしまったら またやり直ししなければならない 憂鬱というよりことばの通じないしつこい宿屋の勧誘やら物売りやらにつきまとわれ歩き疲れてそのうえ空腹で爆発しそうな怒りが今日もあちこちに転がっているのだとすれば

 似た様でいてまったくしゅるいの異なるもの たとえばそれは間違いだったりさもなければ過ちだったり とにかくまったくしゅるいを異にしていることに鈍感になるということがゆるされる日常のなかで ひとりとは言わず なんにんものおとこのこのやおんなのこ あかんぼうたちが爆発して今日もあちこちに転がっているのだとすれば

 おはよう 水色のお弁当箱がシンクの洗い物かごの中で朝日を浴びて光っている 冷たい水をコップにそそぐわたしの指先から渇いた砂のような匂いがして電気炊飯器からあさごはんの蒸気がしろくのぼる 干涸びた魚を冷蔵庫からとりだして 死んだものの瞳の奥に沈んで張りついてこびりついた牛乳みたいな濁った白をみつめる

 わたしはとおくに住むあなたのことをすこしだけ思い出す わたしの中ではすっかり断片的になって パーツにもならないような些細な欠片が とてもちがう どこにでもいるようでいてそこにしかいないたくさんのひとたち 飛行機がおちて 恋人たちが死んで たくさんの供花が今日もあちこちに転がっているのだとすれば

 吸い込まれた先はまた砂時計がさらさらさらさら流れている ゆるやかな曲面を呈する硝子の容器の中 さかさまになったのだと気づく また吸い込まれる時も 頭からではなくつま先から細くなってゆくのだろう

文学極道

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