蛍
島中 充
山の峰に沿って死者は葬られ、墓に囲まれた深い谷に少年は育った。
少年に手淫を教えたのは中学の体育教師だった。少年は一人になると、毎夜ズボンから性器を出し、擦過し、つかの間の高揚感に酔った。
友達から、「手淫を教えられた猿は、狂ったように手淫に耽り、死んでいくのだ」と聞いた。その夜、少年は医師である父の部屋から顕微鏡を持ち出し、自らの精液を見た。プレパラートの上に無数の長い鞭毛のスペルマがあった。スペルマは素早く動き金色に光っていた。
少年に蛍のことを教えたのは、父であった。谷川一面に群がり明滅する蛍は、一週間の命を生きる。ただ交尾をするために。ただ産卵するために。相手を求め明滅し、老いることなく死んでいく。
少年はうっすらとした川あかりの草むらから乱舞する蛍をみていた。少年は狂ったように草の土手を進んだ。そして数匹の蛍を手に握って帰った。真っ暗な部屋で手のひらを開くと、蛍は光りながら宙を舞った。少年はシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、素裸になった。少年は深く椅子に腰をかけ、股間の性器を握った。少年の性器はまだ未熟であった。少年は皮の被った性器を剥いた。そして、一匹の蛍を捕まえ、濡れた亀頭に点した。 蛍は静かに明滅していた。明滅に合わせて、闇の中で少年の裸体が光った。
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作品 - 20140729_346_7570p
- [佳] 蛍 - 島中 充 (2014-07)
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