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作品 - 20140714_014_7541p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


poems for the sad ass

  中田満帆

阪神競馬場 



   馬はおもいどおりに走ってはくれない
   周囲の個体差というものを羞ぢながらぼくは
   ダートをやりくりし損なってしまい、
   またも鞭打たれた
   ぼくの騎手はほんとうにぼくなんだとろうかと訝ってしまえる
   いつか厩舎に火をつけて馬主を蹴り殺してやりたいんだ
   けれどもいったいそれでなんの片がつくというのか
   けっきょくはやっぱりおなじところへと帰っていくほかはないのか
   ぼくというぼくよ、
   醜いおまえのためにどれほどの犠牲があったかを知るがいいさ
   なんにもないふりで赤信号を横切ってくおまえよ、
   かれらからおれの言葉をとりもどすことはできやしない


秩序 


   夜のつらなりはきれいで
   夜行列車みたいにゆったりと
   流れいったけれども
   「笑いが消えてほほえみが消えた」
   ありあらゆる衰退の構図を聴きながら   
   ひとりひとりがそうつぶやきながら去ってしまう
   ぼくの路上を渇いた甲殻類みたいに車がひしゃげて
   街灯を薙ぎ倒してた
   なにかしらの合図でかれらは立ち上がり
   困惑のなかで知らないふりを決めこんでった
   でもだれかがかれらを追いかけるんだ
   すばやく灯りが明滅し、交差する
   でももはやここにはだれもない
   けっきょくはおそすぎた
   だれもが去っていった路上をたえまなく歩く
   だれかが呼んでくれるのを待ちながら
   迫りあがった恐怖感、
   もしも過古に戻れるならば
   まずかの女に伝えなくてはならない
   でもなにを伝えればいいのかをすっかり忘れてしまったんだ
   でもどうにかおもいだそうと努め、裏階段を登る
   でもそれは延びていき、果てを知らない
   でもぼくは登っていく
   過古と現在の構図
   ちぎれて読めなくなった地図と一緒にけっきょくは落ちてしまう  
   それでもすっかり衝撃を感じなくなってしまってた
   ぼくには弱点が必要なのにもうなにも感じない
   どんなひどい科白も吐けるようになってた
   虐められては泣いてた自身はどこへ?
   なにかから隠れてるような気がする
   それでもぼくは歩く、歩く、歩く
   そうしてようやくであった
   たった一本の老木を
   倒れそうなそいつ
   そっと
   ぼくは触れた
   温かい


不運

  
   おお、
   きれいなひとたちよ
   ぼくはまちがいをしでかした
   たったひとつのはずれっこのせいで
   すべてがだいなしに終わってしまったんだ
   おお、醜いぼくよ、
   その両の眼よ
   ゴールをめざして鳥が空を走る
   終わりはもう来たんだ
   不運がやさしい
   つらを決めこんで
   ぼくの胸を押す
   心はおろか躰さえも動かせず
   流れから取り残されて
   もうむかうとこもない
   不運よ、
   どうかやさしいささやきで
   ぼくを送ってくれ


孤立


   なにもかもに明晰でありたい
   ありがとうでもいいあって
   すれちがうかたわれが欲しいもの
   かたちはちがっても通じあうものこそ
   ほんとうの慈愛ではないのか
   救急車輌が通過していく
   ガス・スタンドで人心を喪った患者たちがもうろうと立ってた
   それはぼくのうちがわにそそり立ってきてとても明るい
   こんな光景をもうしばらくも期待してたのだろか
   けれどもこうしたものも色がすぐに抜けてしまって
   午には用を充たさなくなる
   きみはどこでどうしてる
   ぼくはここでじっと待ってる
   攻撃するべき神を求めて
   愛?──そうひまつぶしにはいいかもしれない
   きみのためにできるならそうもわるくないかも、だ
   けれどもこうしたものもやはり色が抜けてしまって
   いつのまにやら慈愛でもなく期待でもなくなる
   あらかじめ正常さを喪ったつけを払いながら
   きょうも列にならび今度こそ自身のなまえが呼ばれるのを待ちながら
   きみたちみんなから孤立してる
  

アニス


   たぶん高尿酸血症だ
   関節液の尿酸結晶がうちがわから足を突き刺してる
   歩けないんだ
   躄りみたいに足を地面に擦りつけながら
   ラブホテルを抜け
   コンビニエンスへとむかう
   これがほんの風穴であったらいいとおもう
   しかし手遅れだ
   生は藁を咥えた犬なんだ
   地上の塵を日が輝かせ
   遠くの角を曖昧なものにみせたがる
   自身の性質にようって放逐されたもののための幻し
   だれとも仲良くはなってはならないとはじめから決められたてたかのよう
   酒をひとりで呷り、呷ってはタイピングをつづける
   この世には少なくとも四つの救いがあった
   絵を描くこと
   ものを書くこと
   音楽を鳴らすこと
   そして手淫すること 
   公園は猫たちでいっぱい
   アニスを喫う
   イタリア国旗を模した箱の、
   かの国の莨を

文学極道

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