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作品 - 20140707_771_7529p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Dust from an angel of the night's flame

  中田満帆

   

夜と午の歌


  夜は忘却を強いて
  午は憶えを強いてやまない
  うす昏い室のうちでおれは脅える
  どちらがわにも許容が利かない
  山麓バイパスを走り抜ける天使たち
  その群れに沿って歩き
  ふいのむなしさに
  泪ぐんでしまう
  忘却も憶えも
  叶わずに
  おれは夢見る、
  舞台まぎわの悪漢たちをだ
  あるいは神戸港くんだりで
  飢え死にすることやなんかを


鳥どもの祈り


  鳥どもの祈りが
  ゆっくりと寝台を濡らす
  まるで玉葱を剥いたときの泪みたいに
  しっとりとなめらかで
  激しい
  心性がだれとも通わなくなって、
  幾年もが経った
  しかしいまかれらが魂しいをあたらしいものにしてくれる
  それは渇き切った現実にやさしい
  鳥どもの祈りは次第に夜めいてくる
  そいつはネオンみたいに輝かしいけれども
  裸電球みたいにつつましくもある
  羽が揺れ、
  嘴が囁くときだった
  おれの心をちぎりとって、
  かれらは飛び立ってしまい、
  祈りもろとも、
  みえなくなったんだ。


なにかにむかって犬が吠えてる


        ブルース・ウィリアムズ写真集「死ぬにはいい日だ」によせて


  ラヂオで警察無線を聴きながら犬は車を走らせる
  浮浪者の凍死体や、
  行方不明者たち、
  事故や殺人、
  警官どもの暴虐の捧げを
  路上に眠るものたち
  ボール紙に書かれた救済を乞うメッセージども
  アメリカ──ホームレスのホーム!
  教会で眠る男たち
  少女は消防車の水を呑む
  Two white boy
  I black
  Stay away for the car
  My sister see you
  地下鉄が暴力を乗せて走り、
  犬はまたも車を走らせる
  つぎはなにが現れるのか
  「ニューヨークは最悪の街だ」と
  ぼやきながらもそれはやがて内なる悲鳴に変わり
  なにかにむかって犬は吠えてる
  なにかにむかって犬が吠えてる
  けれどもわたしはページ越しのニッポン人に過ぎない


二宮神社
    
  
  けれども枯れた木立ちはなにものも慰みはしないだろう
  ただ諒解もなしにぼくのうちに列んでるだけだ
  夏の盛りをまっすぐにゆく路
  むなしさは消えない
  対話もなく
  寂寥のうちを通り過ぎてったひとたちよ
  透き通った茎みたいにその断面は涼しい
  ちょうど終の出会い顔みせて
  ぼくは手水を唇ちにする
  けれども朝になってしまえばすべては失せ
  みえなくなったぼくがしたたかにかぜの殴打を受けるだろう
  どうぞご勝手に、だ。

文学極道

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