選出作品

作品 - 20140619_361_7496p

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弱冷車にて

  かとり



循環する体臭に吹かれて
おもわず近しい人の
襟元を嗅ぐ
風を演繹している
静物たる役者達を
朝陽は刻々とスキャンして
震える窓の映像と
干渉し合う音声とが
熱の移動を証してくれる
ミニストップのコーヒーを
啜ろうとして離れゆく
8時47分
取り残されたカーブに
一際高い音は鳴り
お弁当箱の数々は
吹き飛び
青空に散りばめられた
たくあんも
ウインナーも
ひじきも
ほうれん草のおひたしも
たまご焼きも
ミートボールも
野菜炒めも
コロッケも
メロンパンも
麻婆茄子も
プチトマトも
からあげも
グリンピースも
そぼろご飯も
林檎の兎も
梅干しも
扉が開くと
私は弾かれたように歩きだす
まるで今まで
歩いたことがなかったかのように