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作品 - 20140120_983_7250p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ショッピングモール

  山人


郊外の田は収穫のあと放置され、新しくイヌビエがすでに生い茂り、晩秋の季節特有の屈強なアメリカセンダングサが雨に打たれている。
ときおり雨脚は強くなるが、大雨になることはなかった。
 雨はすべての世界を狭窄してしまうほど憂鬱だ。この雨の中、透きとおるような横顔で通り過ぎる男女の車があり、幼いやわらかな面持ちの子供たちの横顔もみえる。
 バイパスの近くの高校ではなにかのイベントがあるらしく、多くの父兄やらが傘を差し校門に入るところであった。
低山だが、鬱蒼とした連山が峰をつくり出し、少しづつ色合いを増している。それぞれの色、数々の色合いの車たちが峠を越えて街並みに吸い込まれてゆく。

二人きりで出かけることなど今までどれだけあったであろうか、そう思いながら助手席にすわり、雨の街を眺めている。
行楽の季節なのに、台風の到来で遠出は無理とあきらめ、家族連れたちは近くのショッピングモールでやり過ごそうとしているようだ。
むかし、私たちもあんなふうに子供たちの手を引き、あるいは抱きかかえて、店の中に入ったものだった。たぶん君も同じように、遠い記憶をたよりに昔の記憶に寄り添っていたのだろう。
普段あまり会話しないのだが、すこしばかりの安堵と久々の休日で、少し饒舌すぎるのではないかと思うほどしゃべってしまっていた。

広い川に架かる大橋を渡ると、新興都市らしい病院や建物が見えてくる。
巨大なショッピングモールで車を止め、君は買い物があるのだと出た。傘を差して雨の中を小走りに向かっていく。
 いつもそうして何かに向かう君がいた。
夏の、まいあがる草いきれと土ぼこりの中、甲高い声がありきたりな日常をふるわせて生活の時を刻んだ。
未来は少しずつしなだれてゆくけれど、何かを数えるでもなく、君の声はふくらんだ突起物をけたたましく刈り取ってゆく。
そのひとつひとつが、私たちの日々だった。

壮大なイマジネーションがひとつの光源となり、しだいに明確になってゆく。こまかい事柄がさらに複雑な数値をたずさえて、ひとつふたつと入道雲のようにふくらんで熱量を帯びてくる。屈折のない光と直線と空間、とり憑かれたうねりの渦に次々と人々が巻かれてゆく。はじけてころがされた鬱屈が其処此処に黙って潜んでいる。
巨大な建物の中をあらゆる空気が風となって吹き渡る。織り成す生活の地肌がにおいを放っている。

君はいくつもの買い物袋をぶらさげて帰ってきた。ひとつの行動が終わり、次へと向かう時のふと漏らす息遣い、そのようにいくらかの不満を口にし再び運転席に座る。
 雨は少し小降りになる。
私たちの後部には、買い物袋のささやきが聞こえる。
かつて、後部座席には私たちの子供たちが乗り、行くあてのない旅のことも知らず、名もない歌をうたっていた。

すでにバイパス近くの高校のイベントは終わり、郊外に入る。雨はおだやみ、帰化植物のアメリカセンダングサは季節はずれの花を持ち、君の振る舞いのように揺れていた。

文学極道

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