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作品 - 20140120_979_7249p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


グラウンド・ゼロ

  MANITOU

 私のお腹が出てきたのはいつの頃からだったろうか。いやね、そうたいして出てはいな
いんですよ。家族が言うほどには出ていないと私は思う。でも、痩せていた昔と較べると、
明らかにポコッと膨れてきているから、お腹の中に誰かいるのは間違いない。しょっちゅ
う喋り声が聴こえてくるけど、おヘソに耳を当ててよく聴いてみようにも、上体を目いっ
ぱい前屈して顔を左右どちらかに向け、片方の耳をおヘソに当てるなんて、サーカスの軟
体芸人じゃあるまいし、私にできるわけがない。さてどうしたものかと思案していると、
何処からか一角犀がのそのそ歩いて来て、私のおヘソに片方の耳をピタッと当てると、お
腹の声を状況説明付きで復唱し始めた。「関東甲信越放送のタテヤマさん?」「…oggpox
…gppppx…」一角犀によれば、お腹の中はテレビ局のスタジオになっていて、長身美人キ
ャスターのゼッターランドさんが、現地で取材中のレポーターに呼び掛けているそうだ。
「関東甲信越放送のタテヤマさん?」「…gqqqvv…ppxx…」何でもJR中央本線勝沼ぶど
う郷駅前に、突如としてグラウンド・ゼロが出現したらしい。「関東甲信越放送のタテヤ
マさん?」「…xqqiix…xkkxxx…」あいにく現地は昨夜からの猛吹雪。通信トラブルのせ
いでなかなか中継が繋がらない。「タテヤマさん?」「…wv…viioooiv…」「タテヤマさ
ん?」「…pppuuxxjjoiw…」ゼッターランドさんはいい加減イライラしながら、タテヤマ
さんを呼び続けている。「タテヤマさん?」繋がらない。「タテヤマさん?」やっぱり繋
がらない。「タテヤマさん?」駄目。「タテヤマさん?」「…jqoqoxxwpzzz…」「タテヤ
マー!!!!」おーっと終いには呼び付けだ。「タテヤマー!タテヤマー!」むきになっ
て連呼している。私はタテヤマさんなんて知らないが、ゼッターランドさんが気の毒にな
ったので、つい中継が繋がったふりをして、「…igogviggpoxx…いタテヤマですっ!」と
叫んでしまった。それを聴いた瞬間、ニヤッと笑った一角犀は、おもむろにおヘソから耳
を離すと、私を睨み付けながら言った。「やはりお前がタテヤマだったか」


                         かすみがかったピンク色の空の下
                  火星最大の盾状火山であるオリンポス山の山頂に
                      巨大な合金製の立方体が乗っかっている
         地球の富士山がすっぽり収まってしまうくらい広大な複合カルデラは
                立方体の底面に覆われてしまって見ることができない
      太陽系の最高峰でもあるオリンポス山の標高は優に25,000mを超えるが
                   立方体の高さを足すとその倍近くになるだろう
          鏡のように火星の光景を映し 陽光を反射している立方体の各面に
           時折 その内部から外界の様子を窺う巨大な両眼の映像が現れる
                   まつ毛の長いパチクリしたおめめがキョロリン
                           ハートキャッチプリキュア!
                キュアマリンこと来海(くるみ)えりかちゃんの眼だ


「いや私はタテヤマなんかじゃない!」と叫んではみたものの自信がない。でも私はタテ
ヤマなんかじゃ、タテヤマなんかじゃ……あれ? じゃあ私は誰だっけ? よく分からな
い。私は本当はタテヤマなのかも知れない。どうもタテヤマのような気がしてくる。タテ
ヤマのような気が増してくる。タテヤマのような気がどんどん増してくる。私のタテヤマ
度がどんどんどんどん増してくる。私のタテヤマ度がどんどんどんどんどんどんどんどん
増してくる。タテヤマ度がどんどんど……もうそろそろ私はタテヤマだろう。タテヤマな
のか? タテヤマ? 事ここに至って私は宣言する。何を隠そう私こそタテヤマその人で
ある。一角犀の奴めこのタテヤマに一杯食わしやがった。私のお腹の中にテレビスタジオ
なんか無いのだ。大おんな美人キャスターのゼッターランドさんも作り話だ。私はもとも
と自分自身のお喋りを聴いていただけだったのだ。グラウンド・ゼロなんてどこの駅前を
探したってありゃあしない。「果たしてそうかな?」一角犀が薄笑いを浮かべながら言っ
た。その瞬間、私のお腹の中に核爆発の閃光が走り、黒褐色のキノコ雲が立ち昇ると、亡
霊の如くグラウンド・ゼロが出現した。そこは破壊され尽くして、何も無い、誰もいない
空虚だ。「タテヤマぁ、お前の空っぽなお腹をツンツンしてやる」一角犀が私のお腹を角
で突っつきながら言った。チクチク感がビミョーに心地よい。刺激によって活性化された
のか、お腹のグラウンド・ゼロは徐々に成長を始めている。もしやおめでたか? おめで
たなのか? いったい何が?「もうちょっと膨らんできたらぷにぷにしてあげる」一角犀
が流し目を使いながら幼女の声で言った。ぷにぷにというのは具体的にどうやるのか、私
にはよく分からないが、語感から察するに、それも悪くなさそうだと思った。


キュアマリン応答せよ! 火星のキュアマリン応答せよ!
こちらハートキャッチプリキュア!
希望ヶ花中学校駐屯員にして来海えりかの大親友
キュアブロッサムこと花咲つぼみですっ
成層圏を哨戒飛行中 レーダーで把捉後にオクトパス型探査スコープにて再度確認
JR中央本線勝沼ぶどう郷駅前スーパー銭湯「ゆぴか」露天風呂にて
TIPEタテヤマのグラウンド・ゼロが発生しました!
ただちに対処しないとお腹が→子宇宙→孫宇宙→ひ孫宇宙…へと指数的に増殖してしまう
恐れていた多宇宙に跨る空虚の孵化 ひいては重畳ヒッグス場のVertical崩壊が始まる
指令α-187「ANTI-ぷにぷに」の発令を待っていては遅きに失するかも知れない
キュアサンシャインもキュアムーンライトも砂漠の使徒に捕まって
凌辱のあげくブツ切りにされて土手鍋の具になっちゃったの
あたしはプリキュア史上最弱で有名だし……
だからキュアマリン!
火星のキュアマリン!
いま地球はあなたの力が必要なの
えりか!
早く帰って来て!

文学極道

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