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作品 - 20140103_786_7227p

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ハンドジャンプ

  はかいし


ホップ、ステップ、ハンドジャンプ! 君がそう言ったからぼくは逆立ちしてやってみた、ところが君はハンドジャンプじゃなくて、アンドジャンプと言ったのだった。それだけだ。本当はそうなる予定だったんだ。ところが、逆立ちしてしまったのが運の尽きだ。ぼくの長すぎる足が木の枝に引っかかって、取れなくなってしまった。君はまだ同じことを繰り返す。ホップ、ステップ、ハンドジャンプ! おかげで、ぼくは眠りたくても眠れないんだ。ぼくは翼を折り畳んで、そのままの体勢でいる。君がホップ、ステップ、ハンドジャンプ! それを何回も何回も繰り返すせいで、ぼくは全然眠れない。ぼくは特別耳が良くて、口から出した超音波を聞き取れるぐらいの耳の良さなんだ。しかもそれだけじゃない。これは反響定位って巷では言われているらしいが、ぼくはその超音波を使って物の位置も形も理解することができる。それで君がさっきから言い続けているホップ、ステップ、ハンドジャンプ、これがまたものすごい音の塊になって飛んでくる。漫画で言うなら、ホップのところでビールの泡みたいなのが飛んできて、ステップでバスの段差で転げ落ちたお婆さんが飛んできて、ハンドジャンプで逆立ちしたままの筋肉男が飛んでくる、そんな感じだ。そして、君がその口を閉じない限りは永遠にビールは泡を吹き出し続けるし、お婆さんは段差を転がり続けて血を流すし、逆立ちしたままの筋肉男は汗を流し続ける。やがて泡と血と汗とが混ざり合った液が、辺り一面に広がっていって、逆さまになったぼくの頭すれすれのところまでせり上がってくる、こりゃあとんでもないことになったと、ぼくは無理やり起き上がって飛び立とうとする、でも足は相変わらず木の枝に引っかかったまま取れそうもない。それで仕方が無いから、長いこともがき続けていたら、いつの間にか木の枝を軸に体がぐるぐる遠心力をつけて回転していて、頭があの液を何度も跳ね飛ばしている。君の顔にかかっているそれが、めまぐるしく変転する視界の中で何回かちらつく。それに気づいたとき、どうしてぼくはこんなことになっているんだろうとようやく考え始めて、こうなる前は、ひっくり返っていて、頭に血が登っていて、目を少し上げればすぐそこには液がせり上がっていて、でも考えてみれば液がせり上がっているはずがなくて、それは漫画を前提に考えていたせいで、そう気づいたときやっと漫画の世界から抜け出せて、さっきまでコマを吹き飛ばさんばかりに思えていた音の塊が嘘くさく思えて、そしたらその前には眠りたかったのだと思い出して、それじゃああの漫画はなんだったんだと思って、そうだあれは夢なんだと思ったら、どこからどこまでが夢だったんだろうと思って、そうかぼくは反響定位していたんだな、それじゃあ蝙蝠だったんだと思って、ということは蝙蝠なのに思考があるのはおかしいから、その辺については少なくとも夢で、すると夢じゃなかったところは多分逆立ちした辺りかなと思って、そうしたらもう君がホップステップハンドジャンプを繰り返している意味がわからなくって、なんのためにそんなことを言うんだろうと思って、君はきっと無意味に生きているんだと思ったら、なんだか虚しくなってきて、どうして夢は夢なんだろうという答えようもない問いが生まれてきて、やっぱりこれも頭に血が登っているせいなのかな、もう頭がめちゃくちゃにフル稼働して、そうだ夢は夢だから夢なんだと思ったら、木の枝が折れてズドンと頭をぶつけた。漫画ならここで頭がバネになって、ホップ、ステップ、アンドジャンプをちゃんとやり遂げるんだろうな。

文学極道

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