選出作品

作品 - 20131120_104_7147p

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紙飛行機(ステルスエアメール)

  イモコ

今日が、何の日だか知っていますか。今日はエアメールの日です。2月18日エアメールの日。何故か,あまりにもたくさんのエアメールが飛び交う2月18日火曜日。これだけたくさんのエアメールが飛び交う日ですから,事故もおこります。こうしてここへ来たエアメールたちは,だれかのもとへ届くことなく,ここでその生涯を終えます。

1911年,明治44年2月18日,日本に初めてのエアメールが届きました。6000通ものエアメールが,日本へ一直線に飛んできました。冥王星からです。「わたしです。ここにいます。」とその6000通のエアメールには書き記されていました。何故あの文字がそう読めたのかはわかりません。「ここ」がどこなのか,いつ送られたものなのか,わたしたちには皆目見当もつきません。冥王星から日本へ飛んできたエアメール。何かに見つからないように,そのエアメールは空を真似ていました。ステルスエアメールです。しかし残念なことに冥王星を発見したのは,彼らがエアメールを送った相手ではなく,アメリカ・ローウェル天文台のクライド・ボーンでした。1930年,昭和5年のことです。何の因果か,これも2月18日,あのエアメールが初めて届いたその日でした。エアメールが届いてから29年。15等星というその小ささから,こんなにも発見に時間がかかってしまいました。1月23と1月29日に撮影した写真の比較研究から発見されるに至った太陽系第9惑星。1911年の2月18日から,アメリカに発見される1930年の2月18日までの29年間,数を減らしながらも,毎年かかさず,そのエアメールは日本へ届けられていました。

「もういません。」

1930年2月18日に届いた213通のステルスエアメールにはそう記されていました。冥王星から日本に届いたエアメールはこれが最後です。
 ここには,毎年2月18日に,多くの傷ついたエアメールたちが迷い込んできます。飛行途中に撃ち落とされたエアメールたちです。最初の年はここにくるエアメールは0でした。こんなに丁寧に折られたエアメールが自ら道を失い,迷うことなどめったにないのです。

「わたしです。ここにいます。」

1930年以降毎年変わらずここにくるエアメールたちにもたった一つだけ変化がありました。2001年,国際天文学連合によって冥王星がDwarf Planet(矮惑星)とされる5年程前から,彼らの尾翼に小さな模様が描かれるようになりました。一つ一つ違う模様ですが,そこからは規則性がうかがえます。2001年から描かれるようになったこの模様は,おそらく通し番号のようなものであることが分かってきました。
今日も,撃ち落とされた19通の精巧なエアメールたちがここに迷い込んできました。しかし,この模様によれば,今年は20通のエアメールがあちらから飛ばされているはずであることが分かります。残りの1通は無事に着陸することができたということです。
 あなたは,そのエアメールを探すことができます。読むことができます。私にはできません。無事についたものを,私は読むことができません。無事についた喜びを私はかみしめることができません。無事たどり着けなかった無念と悔しさを憐みで見つめることしかできません。
 どうか無事についたその20通目のエアメールが優しい誰かに読まれることを祈っています。