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作品 - 20130903_888_7008p

  • [佳]  流産 - かとり  (2013-09)

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流産

  かとり



つちくれを
つかんでは箱に投げる
乾燥したふるいつちの
はじける煙をかぶって
衣服や靴に粒子が付く
髪や 瞼にも粒子
目を開くとじぶんの
肉や筋が思いどおりによく動く
まったくみすぼらしい表情だが
そこには指示語も何も必要がない
うるさいヘリコの音
わたしは仕事を終わらせてはやく手を洗いたかった


スフィンクスが言うところの夜
指先が3本目の
足に変わっていく
わたしの年老いた歴史が
奇形児たちにむけて
彗星をフリックする
オイディプスは小人症で
声が小さくてよく聞き取れない


涙はついにでないし
言葉にすべきことも
許せないこともない
ただ何となくわたしは
いじけているのだと思っていた
そしてポケットに
手を突っ込んで
底の方にあった手ざわりをつまみ
たき火の中にぽとぽとと落として
昇る火の粉に微笑んで
坐りこんでその場所で眠ってしまう
そんな夢をみた
そんな上演があった
観客は すくすくと育ち
演目は けして悲劇にはならない
舞台だけが その場所に残り風化していく


厚く
水底に積もっているのは
流産への恐怖だ
黙って
耳を澄ませていると
予感として 
余韻として
叫びが聞こえる
冷たい
泥を掬う手が
乾燥して衣に
暖かさを移して
美しくずるい男女が
やさしくなっていく
また会おうと
つぶやくこともなく
つぶやきながら