セーラー服を埋葬したあたしの体は計り売りがいい感じ
密生した花嫁のあいだ、そのあたり指を這わせて
お幸せにとつぶやく白無垢すがたの老婆は
白濁した瞳の向こうにむしゃぶりつきたくなるような
夜の印象を秘めているから
老婆が花嫁のうなじに値札をつける悪い習慣を誰も咎めない
花嫁がすすり泣く夜が美味しくてやみつきになるころに
子守唄が聴こえる
花嫁が母親を召喚した
計り売りのあたしは素早く消化される
どっちつかずの退屈の爪先は
永遠の花嫁よりも美味しいはずだから
迷わず買って食ってほしい
ねえ聞きたいの、夜っていくつあると思う?
他人の夜とあなたの夜と、そんなの数えるのアホだけだよ
そんくらいの、夜と夜の
あたし、そこのところに人差し指突き立てて
撃って撃って穴まみれにして、ほら
あぶくになって輪郭線失って
使い物にならない夜鋭くなって
鎖骨に突き刺さる
なんだか懐かしくて泣きたくなっちゃうんだ
あたしを買って
ここら辺は全滅してる
花嫁と花婿の亡骸が風に揺れて
こつんこつんと乾いた終末を奏でた
老婆はあたしを切り刻んで切り刻まれたところで
ろくな値がつかないんだけど、我慢しな
あたし売り切れる前に脳内にでっかい遊園地こしらえて
お父さんとお母さんを召喚する、ついでに妹も
ピエロが配る風船を夜空に放って
夜空に沈んでいくような、わっかの中の
赤とか黄色の電飾のなかのメリーゴーラウンド
あれに乗りたいって走り去る妹を追いかけて、抱きついて
世界が滲む、どうしようもない血縁
お父さんとお母さんより先に生まれていたらあたし
どんな形にでもなれたんだけど
ゆううつな中庭にセーラー服を埋葬して、はだかになった
あたしの一晩はどうしようもない値で売られてる
選出作品
作品 - 20130215_621_6701p
- [優] 終わりのあとに始まって - 深街ゆか (2013-02)
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終わりのあとに始まって
深街ゆか