選出作品

作品 - 20121009_855_6404p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


パパはフードル

  大ちゃん

嫁が若い男と逃げた。オッパイを弄るいたいけな息子を残して。年下の嫁に寄生していた、中年の俺は大ピンチ。早速ナマ保に頼りたいが、役所の奴らはどうも苦手だ。ええ!じゃ働けば良いって。今更この俺にどんな仕事が出来るって言うの?

「無理!」

家賃の滞納にキレた大屋が部屋の鍵を変え、今にも追い出しをかけて来る気配。とりあえず当面の軍資金が欲しいけど・・頼りになる親戚、友人、知人、誰一人イメージできない。もう闇金しか相手にしてくれないよ。BUT、それはそれで後がとても面倒だ。

「ギャーギャー。」

腹を減らした息子が、鬼のように泣いている。いくら必須なタンパク質とは言え、息子に息子をくわえさせて、男のミルクを飲ませるってわけにもいかず、本当に困った。ああ情けネエ、そこら辺の中坊の方が俺より金を持っている。

そんな時、ふと昔バイトしていた居酒屋で、先輩に聞いたある都市伝説を思い出した。人間危機に陥ちると、色色な知恵が生まれる。その内容は・・・・

「ホモビデオに出演したら、即金で50万円もらえるよ。」

と言うもの。藁にもすがる気持ちで、俺はこの伝説に賭けて見る事にした。早速新宿のエロビデオ店でリサーチした所、柳生企画という会社が「中年男優を急募」しているのがわかった。意を決し電話をした俺、すんなり面接にまで漕ぎ着けることが出来た。



柳生企画は赤羽の汚いペンシルビルにあった。俺は狭いエレベータに、ガキを載せたベビーカーを押し込むと、自らも隙間に納まり、3Fのボタンを押した。ピーン、扉が開くとそこはダイレクトに事務所で、撮影用の大きなベッドが置いてあった。総白髪のインテリ風な男と、ラガーマン系の筋骨男が、二人並んで立っており、紳士の方が挨拶してきた。

「お待ちしておりました、私は、当柳生企画代表、柳生劣情と申します。して、こちらの男がAD兼男優の柳生チョコ兵衛であります。」

目元涼しげな社長、淀みない口上には知性が溢れていた。反面チョコ兵衛はベビーカーに目をくれると、フンと鼻を鳴らした。見るからに感じの悪い男だ。

「さあでは早速、撮影に入りましょう。この服に着替えてください。」

え!今日は面接だけでは・・・なんか撮影とか言っている、まだ具体的なギャラの話もしてないし、俺は心臓がバクバクしだした。

「お互い、納期に追われるもの、すぐに金の欲しいもの、利害は一致しています。お話は早いに越した事がないのでは?当方ギャラは即金で30万円用意しています。」

社長の言う通りだった、それに30万あれば当座は何とか凌げる。俺は込み上げる胃酸を再び飲み込み、契約書にサインをして、プロダクションの用意した衣装に着替え始めていた。



ビデオのシナリオは
町工場の昼休み、野球に興ずる従業員の打ったボールが、敷地内から道路に飛び出し。某大企業の御曹司の運転する高級外車のボンネットに当たった。事故処理のため、御曹司の家に謝罪に出向いた工場長は示談の話を切り出したのだが・・・ムラムラしてきた御曹司に、突然レイプされてしまう。

大体こんな感じ。その工場長の役が、悲しいかなこの俺なのだ。心底アホらしかったがもうやるしか道はなかった。

イキナリ撮影が開始した、ACT1.工場長のレイプシーンだ。俺は御曹司役のチョコ兵衛に、スーツを破かれ、パンツを脱がされ、ベッドの上であわや犯されそうになった。その時、ベビーカーで寝ていた息子が急に目を覚まし、豪快に泣き出した・・撮影は中断してしまった。

「チッ、だからこんな子連れのじじい、使い物にならねえって、言ったんだよ。」

チョコ兵衛が舌打ちをした。

それは夢でも見ているようだった。社長は机に立掛けていた木刀を手に取ると、何の躊躇もなしにチョコ兵衛の顔面めがけ振り下ろしたのだ。

「パン、ビッシャャ〜。」

「ギャー。」

何と言うことだ、チョコ兵衛の左眼は、爆ぜて潰れてしまった。ベッドにうずくまる彼を上から見下ろしながら、社長はこう叫んでいた。

「たわけが。心は、魂はどこへ置き忘れた。最近のオノレは目に余る。調子こいてたら殺すぞ!」

「父上す、すみません。チョコが、チョコ兵衛が、悪うございました。奢り高ぶっておりました。」

「今頃わかってどうする?お前も柳生なら、一族の跡取りなら、最初からちゃんとしないか。」

ガス ガス。社長は木刀でチョコ兵衛の背中を連打した。

「父上、父上お許しを、何卒お許しを。」

 「こちらのパパさんはなぁ、子供のミルク代を稼ぐ為に、身体を張ってここまで来られたのだ。ノンケのしかも初老の男が、ケツの穴をさらす切ない気持ちが、お前にはわからんのか。」

 手で顔を覆うチョコ兵衛の指の隙間からは、幾筋も血が流れていた。

「おおお、すいません、パパさんすんません。この片目に免じて、もう一度、もう一度だけ撮影をさせて下さい。」

「やりましょう、やりましょうよ柳生さん!」

不思議だ。この光景を見て、俺は強い心意気を感じ始めていた。

「お前も柳生なら見事、止血してみよ。」

社長は自ら〆ていた、白い木綿のふんどしを掴み取ると、チョコ兵衛の顔面に投げつけた。彼はキュキュッとそれで眼の周りを縛ったのだが、みるみる赤フンに変わってしまった。しかし凄いものだ、精神力で流血が少しましになったように見える。とは言え、ベッドの上は血だらけ、泣き叫ぶ我が子、ゾンビ顔のチョコ兵衛、それらの悪条件にもかかわらず撮影は非情にも再開した。

 「音声は無しで、そんなもの後から何とでもなる。」

社長は声が上ずっていた

俺は息子を抱きしめると、自らの乳首をくわえさせ、そのまま血染めのベッドに仰向けに倒れこみ股を広げた。

「どうぞ柳生さん、我ら親子に構わず、早く、早く、始めちゃって下さい。」

「そうだ、チョコ兵衛、覆いかぶさって交尾しろ。子供は後でモザイクでも画けて、消せば済む事じゃないか。見せてみろ、心のファック、魂のファックを。」

シーツに溜まった血を指に絡めて、俺の肛門になすりつけると、チョコ兵衛は怒張したチョモランマをぐいぐいと俺の中に押し込んで来た。

 「痛い!痛い!」

ケツの中に漂白剤をぶち込まれた気分だ。涙が溢れてくる。だけどチョコ兵衛は片目を失ってまで頑張ってくれているんだ。ここで踏ん張らないで、どうすると言うのだ「俺!」

ピストンを続ける内に、再び出血の始まったチョコ兵衛は貧血で気絶しそうになった。俺は彼の肩の逞しい筋肉に噛み付いた。

「起きてくれチョコ兵衛。」

ボロ差し歯をグラグラにして、力一杯に噛み締めていた

「パパさん、ありがとう。」

意識を取り戻した、瀕死のチョコ兵衛の、男らしい感謝の気持ちを俺は体中で受け止めていた。そりゃ痛いさ、痛くて堪らない。だけど俺達、お互いがお互いの気持ちを慈しみ合っている。これぞ心の・魂の性技、柳生活人姦に違いないのだ。

「パパさん、往く。往く。」

チョコ兵衛が喘ぎだした。

「今だ、真空膣外射精!(膣ではない)」

社長が叫んでいる。柳生劣情、彼こそは正真正銘のファックの鬼だ。

チョコ兵衛のうまい棒が、俺のお尻からずり抜けた。俺は目の前で揺れているそれを、両の掌でハッシと挟み止めた。

「おお、神技・真剣まら刃取り。」

劣情が叫んだ次の瞬間、俺はチョコ兵衛の迸る白濁液を、一滴残さず顔面で受け止めていた。アクションが終わった後、俺も息子もチョコ兵衛も、疲れ果ててそのままぐっすりと眠ってしまった。



目覚めると事務所には、俺達親子だけが残っていた。柳生軍団はあの状態で、次の撮影に出かけたとでも言うのか?脇机の上に置き手紙があった、読んでみると。

「パパさん、今日は大変な撮影をこなして頂き、誠にありがとう御座います。チョコ兵衛の慢心を諌めることができ、父としてこれ以上の喜びはありません。御礼の金子を宜しくお納めいただきますよう、切に願います。あなたがた親子に幸多き事を、心より望んでおります。柳生劣情 拝。」

いつの間にか換えられていた、清潔なシーツと枕の間に、札束でふくれた、長封筒が差し込んであった。

「100万円ある!」

俺は泣いた、お尻が痛かったからじゃない。誰かの頑張りが誰かを幸せにする、永劫回帰の幸せリング。こんな俺にも、出来る事があったのだ。

「カサカサ。」

お金を抜き取った後の封筒を逆さまにすると、チリチリにカールしたヘアーが数本落ちてきた。これぞマニア垂涎のDNA「柳生一族の陰毛」に相違ない。家宝にせねばなるまい。

「パパさん、パパさん。」

おお息子よ、大五郎よ、初めて呼んでくれたね。



エピローグ

劣情氏はお金以外にも、新宿の男性専科ソープ「冥府魔道」への紹介状と、さらに男娼として生きていく上でのマストアイテム、「柳生武ゲイ帳」をも用意してくれていた。さっそく、店を訪ねた俺は、ゲイ法指南役=柳生一族の絶大なる威光のおかげで、無事就職する事ができた。源氏名はオガミIKKOに決定。この時から俺の風俗アイドル(フードル)としてのサクセスストーリーが始まった。

俺たちの出演した例のビデオは、異様なカルトムービーとして、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でレッドメロン賞を受賞し、世界中のホラー映画通の知る所となった。片目を潰された、血染めのゾンビが、華奢な初老の男を犯す。二人の間に挟まって、何やらモザイクで隠された小柄な生命体が蠢いている。このショッキング映像が、専門家の間でフォースカインド(宇宙人との第四種接近遭遇)のドキュメントではないかと噂される様になっていたのだ。あのビデオの男優が店に出ている!と、ネット上で話題沸騰。恐いもの見たさのゲストが殺到して、俺の予約は、2年先までブッキングされていた。

武ゲイ帳を、隅から隅まで暗記した俺は、柳生新カマ流の師範となり、神レベルの性技でお客様を昇天させていた。さらに、グレイ型宇宙人の着ぐるみを着て、未来的なベビーカーに乗った息子が、絶妙のタイミングで発射するバイブミサイル「胴たぬき」は、お客様を狂喜乱舞させ、半端ないリピーター率を産み出す原動力となっていた。

そんな中、どこで噂を聞いてきたのか、嫁が俺たちの元へ帰ってきた。ダイブ苦労したらしい、体のいたるところにアザがあった。俺はそんな嫁を無条件に受け入れてやった。大五郎も本物のオッパイが吸えて嬉しそうだったが、そこには別れた男の名前のタトゥーが刻まれていた・・・まあ、いいか。

俺たちは、ファミリーの誰もが風俗を気軽に楽しめる、家族姦割引と言うオプションを始めたのだが、これがまた大ヒットし、一躍、スマホのCMにも出演するほどの人気者になっていた。今年の夏は家族で、24時間テレビのチャリティーマラソンを走る事も決まっている。

人の世は、重き荷を負うて、長い坂道を歩くが如し。辛い事、悲しい事、数え上げればキリがない。だけど俺たち、苦難に(負けないで)立ち向かうことを誓い合った。さあ、サクラ吹雪の(サライ)の空をめざし、ベビーカーを押しながら登っていこうよ、この栄光の春の坂道を。


ある天使の思ひ出に・・・



参考文献
■柳生武芸帳          五味康祐
■春の坂道           山岡荘八
■子連れ狼           原作 小池一夫 作画 小島剛夕
■コワーイAV撮影現場の話    村西とおる


テクニカルターム解説

■グレイ型宇宙人                           
 身長は小柄な人間ほどで、頭部は大きく灰色の肌を持つ。その顔は大きな黒い目(細く釣りあがった目というものも多い)に、鼻の穴と小さな口が特徴。河童などの妖怪も実はグレイではないかと言われている。

■ゆうばり国際ファンタスティック映画祭
 1990年より北海道タ張市で誕生したゆうばり国際ファンタスティック映画祭(ゆうばりファンタ)は、特別招待作品、国際コンペティション、オマージュ上映、特別企画など、ハリウッド大作から邦画、インディーズ作品まで幅広く上映作品が集められ、 秋の東京国際映画祭と並んで映画界の春のお祭りとして、日本国内でも有数の歴史ある映画祭のひとつになった。  ※レッドメロン賞は私の作ったフェイク。