選出作品

作品 - 20120717_902_6215p

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ブラジリアン シンドローム

  大ちゃん

 来るべき新世紀、目に見えぬ力で、世界を牛耳る輩あり。人々はその者たちを、新しい王と呼ぶだろう。(バビロニアの古文書)                  
                                                          

              大阪電力株式会社


              西暦2077年7月某日
              休み明けの月曜日
              その日は朝から
              35℃を越す真夏日であった

              全体朝礼が終わり
              すでに汗まみれの
              4体のサイボーグ社員
              人間風車ビル・ロビンソン
              人間変電所ブルーノ・サンマルチノ
              人間機関車エミール・ザトペック
              人間DOG犬江親兵衛

              彼等は会社の広大な施設内の
              超伝導素材を敷き詰めた
              最先端電磁フィールドにて
              横一列に整列していた

              開始のサイレンとともに
              おのおの右隣の者の
              マスをかきはじめた

人間風車
オッサンの顔に4枚の白いチタン素材の小さな羽根が突き刺さっている。
バードストライクのせいで、血や肉片のこびり付きが落ちない。

人間変電所
オッサンの腹の中に2対のロータリーエンジンを内蔵している。
おにぎり型のバルブが磨耗していて、燃焼効率は少し悪くなっている。

人間機関車
片腕が超合金ピストンで、どんな高速にも対応できるオッサン。
ピストンの先端は、手淫に適した、OKサインの形状である。

人間DOG
ボディに、野良犬の頭が取り付けてあるオッサン。
もともと不細工だったので、あまり代わり映えはしない。


              暖機運転も済
              奉仕専門だった人間風車と
              奉仕されてばかりの人間DOGが
              その距離を縮め出し
              固い絆の円環を閉じた

       ここに永久機関型発電ユニット「四人囃子」は完成を見る

           ヒューマンフレンドリーエネルギー
              「四人囃子」

地球温暖化対策の切り札             三人寄れば「もんじゅ」の知恵
クリーンかつ                    四人集まりゃ「四人囃子」
絶大な発電量                       とかく場当たり的な
大阪都全域の一日消費電力の               国家のエネルギー政策の
約150%を賄っている                当面の切り札的存在であった


 各サイボーグの白金パラジウム製の、剥き出しの燃焼棒(チンコ)が摩擦により赤熱を始めると同時に、彼等自身もぐるぐると小さく回りだした。社内放送では、呑気なオクラホマミキサーがオンエアされ始めたが、やがてそのテンポは常軌を逸する速度と化し、呼応するように、「四人囃子」自体も、目にも留まらない速さで回転していた。彼らの中心に出現した人工コイルの中では、空気が急激に温められ、破格の上昇気流が発生した。それを受け、人間風車は、風車を激しく回転し、エナジーを人間変電所に送電する。人間変電所はそれらのエナジーを何倍にも増幅して、人間機関車に再送電する。人間機関車は手も千切れんばかりにピストンし、そのエナジーを人間DOGに注入する。人間DOGは、注入されたエナジーを電子声帯で言霊に変換し、ウラジオストク(浦塩)まで聞こえるような遠吠えを始める。すると遠吠えは人間風車のナイーブな神経を刺激して更なる回転を呼び・・・・この様にして大阪電力の電磁フィールドにはかつて人類が手にした事のない、未曾有の大電力が発生していたのだった。この発電方法は、プレアデス星系宇宙人が、アメリカのエリア51にて、半世紀前にNASAの科学者達に教示したものだった。出来の悪い我ら地球人も、ようやく彼等の新しいサイエンスを理解し始めたのだった。


              四人の男達はいずれも
              大学生の子ども達がいる
              彼等は学費を稼ぐために
              志願してサイボーグとなった

              父の苦労を知ってか知らずか
              毎夜合コンに興ずる子供達よ
              この光景を見てもまだ
              勉強したくないと言えるのか。

父親とは
家長とは
こう迄しても
頑張らねばならないのだ

              やがて、すったもんだの挙句
              ランチタイムとなった。
              各サイボーグ達は徐々に
              回転をゆるめて行き
              カゴメカゴメ状態を脱した後
              再び横一列の編隊になった


 彼らの消費カロリーは半端ないので、ランチとは言え、タニタの社員食堂のメニュー全部を、バイキング形式で食べてもらっていた、ダイエットには縁のない軍団なのだ。

 さあ、昼にしょうやと、フィールドから離れようとした時、最初に人間DOG犬江親兵衛が異変に気付いた。人間機関車エミール・ザトペックの様子がおかしかったのだ。

      「オッサン、痛い痛い、何しとんねん。昼や、ピストン止めろや。」

 エミールはうつろな眼をして、ふるさと東欧の民謡を口ずさみながら、ピストンを続けていた。その時、気温は45℃を示していた。記録的な猛暑にボケてしまったのか。

              ウーララ
              ウーララ

        「離せや、ワンワン、痛い痛い。もう、ええっちゅうねん。
         お前だけイキッとったら、しばくぞ。」

手淫を止めないザトペックに
人間DOGは顔をしかめて
迷惑そうに吼えた

        「あかん、こいつの眼、いってしもうとるで。」

人間変電所ブルーノ・サンマルチノの声は、恐怖に震えていた

              ウーララ
              ウーララ

         「やばいで、このオッサン、暴走モードや。」

       普段は冷静な人間風車ビル・ロビンソンが叫んでいた


人間機関車
エミール・ザトペック
寡黙な仕事人にして
ふるさと東欧を愛する
いぶし銀のような男

                                  だが反面
                       最新鋭ユニット「四人囃子」の中
                         唯一前時代的なエッセンスを
                       持ち合わせた危険部位でもあった

      「痛い!痛い!チンコ溶ける、チンコ溶ける、キャンキャン。」

犬江親兵衛が泣き叫んでいる
ご自慢の燃焼棒の先から
イカ臭い冷却液をいくら
いくら放出しても・・・
瞬時に気化してしまい
全くうまく行かない
手で撥ね退けるなど論外
既に熱すぎて手遅れであった

         「あかん、オッサンがメルトダウンや。」

              ウーララ
              ウーララ

赤熱したザトペックは、                 
人間DOGのペニスを
ジュンと蒸発させると             
自らもその溶融点を超え
地響きを上げながら
仲間達や周辺の施設を
否応なく引き摺り込み                       
土中にめりこんで行った                  

                              ドドドドドドドッ

                 ウーララ
                ウーララララ

ズボズボズボズボ

              ギャーギャー




           「ブラジルの人、聞こえますか。
           今から、えげつないのが行くでぇ。」


受け狙いの警備員が
電動メガホンを
MAXパワーにして
直径約200mにも達し
依然成長を続けている
巨大な穴に向かって
ギャグを発し続けている

                             この様な局面でさえ
                             笑いを取ろうとする
                               激しくも悲しい
                             浪花のど根性を見た

           グアシャグアシャグアシャアー

 大地は激しく揺れ、大阪電力の全施設、及びに周辺市街地は紅蓮の炎に包まれていた。天空ではJR大阪駅の北ヤードから延びている、軌道エレベーター「ジャック」が暴風に煽られた凧紐の様に、右に左に突っ張らかり、今にも落下してきそうな、嫌な感じになっている。

    サイレンが鳴り響く!ああ終に大阪都最後の日がやって来たのか?




              一部始終を安全な
              VIP席で眺めていた
              大阪電力社長ハシモト氏が
              葉巻を燻らせていると・・・
              場違いな童謡「ふるさと」の
              携帯着メロが流れ出した
              関東電力イシハラ社長からだ

「イシちゃん、電話ありがとう。そっちも大変な時なのに、心配かけてすまないね。何、平気だよ、地球が滅亡でもしない限り、俺たちの栄華に翳りはない。なんてね。」

              更にイシハラ社長から今回の
              ブラジリアン シンドロームの件
              マスコミ対策について聞かれると
              余裕のハシモト氏はこう語った

「放って置けばいいよ。奴ら、ちょっと大袈裟だな。ブラジルは日本の正反対だよ、当社のサイボーグ社員、本当に行くかな?行くかな?とりあえず、このまま地球の中心まで行くとして、彼、それからどうなっちゃうのかな?面白い、俄然、物理学的に興味があるね。そうは思わない、ねぇ、イシちゃん、アハアハハハハ。」



     窓の外では、暗雲が立ち込めて、凄まじい雷鳴が鳴り響いている。
    エミールの開けた穴は既に1キロにも及び、赤黒いマグマを噴出していた。

              イシハラ氏との電話を終えた
              我らのハシモト氏は
              目の前の光景を見て

           「ちょっと、いい感じの地獄絵図じゃないの。」

              クククとうそぶいた後
              自家用の垂直離着陸機
              米軍海兵隊払い下げの
              オスプレイ改に乗って
              早々に現場を離れて行った



                F I N







テクニカルターム解説


○ 人間風車ビル・ロビンソン=いにしえのプロレスラー。必殺技 人間風車{ダブルアームスープレックス、前屈みの相手の前に立った体勢から相手の両腕をリバースフルネルソン(逆さ羽交い締め。相手の両腕を背面に「く」の字になるように自分の腕を絡めて曲げる。リバース・チキンウィングとも言う)にとり、やや腰を落とした後、相手を持ち上げながら後方へ反り返り、相手を背面から後方に叩きつける。}を駆使して日本プロレス界でも暴れまわっていた。

○ 人間変電所 ブルーノサンマルチノ=いにしえのプロレスラー。正しくは人間発電所。その無尽蔵のパワーからこのような異名を取った。

○ 人間機関車 エミールザトペック=チェコ出身。1952年ヘルシンキオリンピックで5000m、10000m、マラソンで金メダルを取り、一躍名をはせた。顔をしかめ、喘ぎながら走るスタイルから、人々は彼を人間機関車と呼んだ。

○ 人間DOG 犬江新兵衛=南総里見八犬伝の中心人物、姫を守り忠義を尽くす、正義の人。

○ イ キ る=大阪弁。ええかっこをして、変に頑張る事。
         イキっている人のことを特別に「イキリ。」とも言う。

○ プレアデス星系宇宙人=古代文明を地球にもたらしたと言われている宇宙人。
他にシリウス系、ケンタウロス系など、地球は、現在に至るまで、色色な宇宙人の介入を、受け続けて来たらしい。