選出作品

作品 - 20120609_187_6140p

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僕とマーメイド

  

マーメイドはキッチンが気に入りで
僕はろくろを回すのが下手糞だった
あんな歪に出来あがった器に
マーメイドの目から落っこちた真珠が
カララン、と二重に音を立てた時
今のは砂浜で蟹が貝殻に落っこちた音に似てるよ
って言ったのが少しかなしそうで
僕はどういう顔をすればいいかわからなかった

マーメイドは怖い顔していた
右手に包丁を持って
めちゃくちゃにしてやるわ
って言ったのが聞こえたけど
ちょっと笑っただけで気のきいたことが言えるほど
僕のろくろ回しは上達していなかった
後ほど宣言通りみじん切りにされたニンジン入りハンバーグを
二人でおいしいと言いながら食べた

マーメイドはキッチンの曇りガラスの隙間から
下校中の小学生をみていた
上達のきざしが見え始めていたろくろ回しは
子供が欲しいな
って声でちょっと乱れた
彼女は笑いながら、土くれでいいじゃない
神さまだってそういうふうにつくったのよ
っていうから、ハーフだねっ、て言ったら
クォーターです、って笑った
いつの間にか居間には
ちょっとだけサカナな生物であふれ返った

マーメイドはサンドウィッチを作っていた
大分ましになったろくろ回しは順調だった
どっかに行くの、って聞いたら
あなたも行くの、って言う
どこに行くの、って聞いたら
お散歩、って言う
ホッキョクグマに会いたいなって言う瞳が
深い深い海のようで僕はまた変な器を作ってしまった

マーメイドは海が恋しくないの
って聞いた時、ろくろはスムースに動揺していた
わたし川専だから、と言われてお茶碗のなりそこないが土に後戻りした
あー、そこの天白川管轄だがね
え、どえりゃあ近いがや
たまには行くの、と聞いたら
あなたがいない時はしょっちゅうね、って言った
僕はお茶碗のなりそこないをまた作り始めた

マーメイドはうたを歌っている
曇りガラスの隙間から差しこむ太陽を助動詞にして