選出作品

作品 - 20120306_846_5919p

  • [佳]  白紙 -  (2012-03)

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白紙

  

あなたは、箪笥の奥に丁寧に重ねられて、歳月に洗われて黄ばんだ原稿用紙を束に持ち、ポケットに忍ばせたジャックナイフで切り刻んで。「死にゆく驢馬の最後の吐息みたいね」って切り刻まれて「泣いている紙だよそれは」、とわたしはあなたに告げるのですが、今度は流星群が飛来したかのように、斜めに幾筋も切られてあなたの腕の運動とともにびらびらと揺れる「火星人みたいなやつだね」は思いのほか赤い血で端々が滲んでいるんだよ。

わたしは刻む、幾年もがふり。あなたの小さな渦巻き管の中にそっとレモンを囁くように、わたしは刻む。尖った鉛筆の芯で、急カーブを描いたと同時に停止して、またゆっくりと始まりが訪れる、レコードの針が落ちる時、白い紙に海が生まれて、そこには見上げる空があるのです。わたしは刻む、あなたのからだに、わたしの愛を、さめざめ泣いたあの時のこと。

あなたは切る、グラファイトの散らばる星座の隙間を、それともそれすら断ち切るように、あなたは切る、「まだ誰も見たことのない星雲から見える星座みたいね」とわたしのからだを裁断しながら、「君に伝わらなかったいくつものことだよ」を、あなたは愛するのです、わたしを愛するように。空を見上げる。「これが私に伝わった形」が赤い血に滲んでゆらゆらとゆれる、あなたに見上げる空があることがわたしに出来る唯一のこと。

わたしは刻む、あなたは切る、二人に取り交わされた神経細胞の刺激を。白い紙があり、海が生まれて、そこには見上げる空があり、二人の星座が入り乱れながら。「悲しみの色合いはこんな形かしら」をわたしは両手で受け取って、「君はもう許されるべきだよ」をあらたにあなたのジャックナイフの頂に乗せるのです。「降り出した雨のように」罪は消えない、「心に刺さったまま」ふたり、夜空の星と街燈とネオンを数えて、何度でも繰り返される白紙に、海が生まれて、見上げれば、また