あ、あ、あ、
人通りの多い市街地で、交差点を歩く人のショッピング袋から鳩が。羽根をばたつかせて空へ飛び去っていく。数羽がもつれてぶつかり合いながら空へ昇ると、めいめいに空を滑空。それを見上げ、ぽかんと開いたいくつもの口に
耳障りなクラクションが響き、変わった信号に追い付こうと車が流れ出す。輸送トラックの車体にディスプレイされた「毎日が楽しくなる!ハッピー…」に目を奪われた人の横で、女性が手を上げてタクシーを停めると、ハザードがカチカチと点滅を繰り返すリズムに、通行人のお尻も蛍みたいに光り出す。歩いてる本人は気付かずに。
ケータイに着信したら、ちょっとはしゃいだ声を出して話しかけて。言葉がわかんないからうまく聞き取れないけど。あーとかうーとかでもさ、そこにいる気配を感じるんだよ。元気にしてんの?
もしもし、バスが来たんでまたかけ直します」ドアが閉まると、バス停から人はいなくなった。残された時刻表には不規則に数字が打ってあり、離れ合ったバス停は、見えないバスの運行でようやく一つの星座をなす。これがこの街の神話の一つです。
オープンテラスのパラソルの下で、香ばしい香りを漂わせながら、開かれた本に並べられた活字は飲み込まれ、声になり、会話となって、テーブルの上を飛び交う。顔と顔を合わせて、しわの一つまで黒い瞳に焼き付けるように。
あ、あ、あ、
この声が聞こえますか?
わたしは元気です。
選出作品
作品 - 20120116_897_5811p
- [佳] コーヒータウン - WHM (2012-01)
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コーヒータウン
WHM