雨傘のとても良い
鳴声を聴きながら
裁ち切られた
耳鳴りをさがしている
砂丘で失くした
二月の誕生石を
さがす女の
袖口からほつれた
生糸に視線を落とし
遠い目をする
仕草のように
路線図のそばで
バスを待つ小学生の
手から吊るされ
打ち鳴らされる
トライアングルの音は細く
しなやかな針金となり
革靴を履いた
標識のような足を縛り
冬の濃い空気もまた
軒下に暗雲を呼んで
乗車券に
黒い染みを付けて行く
未舗装の駐輪場
使い古されたオートバイの
鍵穴は梅色に錆びていて
力強くペダルに蹴りを入れた
白い住人が吐く息に
混ざったオイルの匂いが
部屋に流れて
内鍵をしめた指先は
交換されたばかりの
電球の灯りにさえ
丸みを帯びた
影を差し出す
天井の雨漏りが
うつわの縁に弧を描き
それで安心して
時計の秒針に
耳鳴りを、縫いつける
選出作品
作品 - 20120114_868_5804p
- [佳] 針と糸 - sample (2012-01)
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針と糸
sample