選出作品

作品 - 20120107_811_5798p

  • [佳]  交渉 - ゼッケン  (2012-01)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


交渉

  ゼッケン

人狼を仕留めるには銀の弾丸が必要だ
おれはコートの襟を立てると顎を深く埋め、
街角に立ち、銀の弾丸を買いに来るきみを待っている
今夜は満月だ、きみは急ぐ必要がある
帽子を目深にかぶったおれの顔は
せわしない街の生活者たちの目には入らないだろう
街角に立つコートと帽子の男からきみは
銀の弾丸を買わなければならない
おれはポケットに突っ込んだ掌のうちで流線型の銀を弄ぶ
1月の日本、きみは人狼と対決するはめに陥っている
受験生たちはいまだに鉢巻きを締めている
それはシステムエラーなどではない
人狼は必然なのだ
だが、人狼と対決するのがなぜきみなのかはきみには
分からない
きみに分かるのはきみには銀の弾丸が必要だということだけだ
月明かりの下に立っているのが人狼だけではないにしても
それが人狼ではないという証拠にはならない
きみは備えるしかない
銀の弾丸をきみに売る男を見つけ出し、リボルバーに弾を込めて待つ
目を細めたような雲の切れ間に
遠吠えが聞こえたら
きみは居酒屋の裏でうずくまっていた人狼に向けて銀の弾丸を発射する
それから死体をつっこんだ青いポリバケツに蓋を下ろす
その後、そしらぬ顔をして仲間内の雑談に戻らねばならない
そのとき、ひとり、戻ってこない人間がいる
それはきみか、おれか
誰が銀の弾丸を買いに来るのか
おれはきみのことを知ることになる
立てたコートの襟の後ろで
おれはにやけた口元を隠している