炊飯器をけりとばし
ビー玉が釜からこぼれ落ちる
冷蔵庫の野菜室から
子どもが飛びだして
線路には気をつけなさいとだけ
忠告をする
透明な硝子のなかに
天の川が流れたような
白い模様のあるビー玉がひとつ
テーブルの陰に転がりこみ
それを追いかけた子どもの
名を呼ぼうとしたが
どんな名だったか
思いだせない
それでも呼びとめなければ
いけない気がして
何かを叫ぼうとして
口を動かし
スリッパを脱ぎ捨てる
やかんの湯が沸騰して
警笛を鳴らす
子どもは立ちどまり
こちらを振り返ろうとしたが
列車が子どもの運動靴を
せわしく脱がせて
隠すようにどこかへ
投げ捨ててしまった
やかんの底はあかく
熱され続けている
裸足のわたしがよく冷える
つめたい台所の床で
鉄道模型が樹脂製の車輪を
こすり合わせている
選出作品
作品 - 20120106_801_5796p
- [優] キッチン - sample (2012-01)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
キッチン
sample