#She is fine.
あのこは、からだを「く」の字にして眠っている。胎児の
翳がある、ただ どの部位にいるかわからないのでからだ
をていねいにたたんで眠った ぶかぶかのバレエダンサー
が身につけるような ソックスだけを履いたあのこが、か
らだを売ったベッドでひからびたティッシュだらけになっ
て、あれでドレスメーキングされる。粘膜をひたひたにし
てさわられたいけど 大概が乱暴な手つきだから、破れた。
踊らないマネキンの腕はとれ、あたまどこだかわかんない
し、誰かの匂いがするけど、誰のか知らない。誰の腕なの
、手首なの わたしのおんぼろの毛布 とりあげたパパも
いないママもいなくなった
さわられなれた雛鳥は、ある周期の乱れみたいに、#Fが
鳴り途切れたところで 平衡を、踊りながら下手なりに顔
立ちすら端整に見えて 玩具箱をひっくり返すしゅんかん
、鳥篭からいなくなる。ひたひたの神経回路に浸かってて
羽毛よりやわらかい 溺れるまでもないのに、暗い淡い翳
がありましたが そこごと羊水をわたしの肺に撒き散らし
憶えていないあなたの浅はかさがあったので、洩れなく溢
れた酸素がルームエアーでひかるひかる、それほどにまで
美しくひかる
パパはいませんママもいません ママにあらう順番を教え
てもらったのに やぶってムービーヒロインみたいにてき
とうに石鹸でからだを洗ってたから 土曜日の朝の映画の
色彩は、弧に。視線を、めりこませ 弧から弧を。二つめ
の海を錯覚するように。そらごとにひらかれた午後へ、漣
に繋がる白黒以前に、やけにはっきりと意識に残る。そし
て、やわらかくふやけるもっと内部で、
黒い薔薇の皮膜の中で眠った 重なりあう音域にある熱量
、37℃で 常軌を逸して高ぶるわたしたち ぶれた瞬間
貪欲にやせっぽちだから、だとか皮膜越しにでもあなたを
映した細胞わたしのだからもっともっと内部へ めりこん
だ視線みたいに欲した弧を。やわらかくふやけ 起きたら
ガーゼをまとっていたあのこの手や足を見つけては わた
しがやさしく包みこんであげるから、
選出作品
作品 - 20110831_242_5495p
- [優] インファントフロー - 村田麻衣子 (2011-08)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
インファントフロー
村田麻衣子